Another Novel

□Jekyll and Hyde
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 辺り一帯は薄暗闇。

 まだ昼間の時間帯だが、この森は木々の背が高く、地表に届く光は極僅か。
 その所為か時折吹く風はひんやりと冷たく、湿気を含んでいた。

 人間の言葉を借りるなら、薄気味悪いとでも言うところだろうか。
 普通、人外である者ならばさして気にも留めはしないだろう。



 ………そう、人外である者ならば、の、はずなのだが…。








『…へっぴり腰になってる』

「……な、なってません…っ」

『ふぅん?でも、さっきから手と足が左右一緒に出てね?』

「そっ、そんなこと……」

『ぁ、ヘビ』

「ひぃやぁぁあぁああ!!!!」




 思わず、踏み出そうとした足を下げ、そのまま後ろへ跳び退く。
 そうしてその場にしゃがみ込み、辺りを見渡してみたけれど、あの忌まわしい姿は何処にもなくって。




『――――ぷっ』




 代わりに、耳元で吹き出す声が聞こえた。




「…れ、レティ!からかったでしょ?!」




 がばっと、咄嗟に後ろを勢いよく振り返ったけれど、当然の如くそこには誰もいない。
 薄暗い森が続いているばかり。


 それもそのはず。




『ごめ…っ、だって………シアったら、さっきからビクビクしすぎ…っ』




 その声は自分の鼓膜……いや、脳に直接響いてきているんだから。


 だって僕達は、
 ジキルとハイド。

 『二重人格者』。


 僕達の名前は、レティシア。




『だから、つい、からかいたくなっちゃって…っ』




 そう言ってさっきから僕の中で笑っているのが、レティ。




「ヒドイ……ヒドイです…!」




 そして、さっきから腰を抜かしているのが僕、シアです。



 僕達は2人で1人。

 2人で完璧な『レティシア』なんだ。




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