Another Novel

□ココロ
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 まだ覚醒していないはずの、遠い意識の中で聞こえていたのは、

 綺麗な綺麗な、鐘の音色。






 そして、

 私に囁きかける、



 優しく、穏やかな、

 とても温かい、音色、でした。























「………出来た」




 そう漏らし、詰めていた息を吐き出した男は1歩後退した。

 そのオッドアイが見詰める先には、1人の青年。


 …否。
 人ではない。

 それは、何本ものケーブルに繋がれた、ロボット。
 一見しただけでは人間と見紛うほどにそのロボットはより緻密に設計され、人の形を模していた。




 そう、その出来栄えはまさに『奇跡』。


 1人の孤独な科学者が生み出した、奇跡の賜物。




 穢れを知らぬような雪白の肌。
 艶やかな漆黒の髪。
 まだ成長しきれていない華奢な体躯。
 そして、中性的な貌。

 そのロボットの総ては、息を呑み、呼吸することすら忘れてしまうほどに美しかった。



 男はもう一度そのロボットを見詰めたあと、そっと1つのボタンへ手を伸ばす。
 そして、そのボタンの感触を確かめるように力を込めた。

 すると、ロボットの方から微かに聞こえたコンピュータの起動音。


 次の瞬間には一度ロボットの瞼が震え、
 そうして、長い睫毛に隠されていた瑠璃色の双眸が徐々に顔を見せた。





「……おはよう」





 瑠璃色の宝石の中に自分の姿を見つけた男は、

 優しく穏やかな微笑みを浮かべた。

















 ゆっくりと優しく響く、鐘の音色。



 それは、総ての奇跡が始まったこの部屋の外から、
 穏やかに鳴り響いてきていた…。
















ココロ









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