Another Novel
□pluie 〜fantoccini〜 3.5
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「…なんだよ、アリア」
あたしに呼ばれたシオンは、むすりとした顔のままダイニングの扉を開けた。
「特に用なんてないわよ」
「なら呼ぶなよ…」
淹れた紅茶に口をつけ、テーブルに寄り掛かりながら答えれば、彼は寝癖のついた髪を揺らして肩を落とした。
そんな彼をくすりと笑い、テーブルの上に、彼の分として淹れてやったカップを置いてやる。
そうすれば、シオンはまだ眠いのか、微かに覚束ない足取りでカップの前に座った。
いつもなら、あたしが気紛れで紅茶を淹れてやったりすると、「毒でも入ってんじゃね?」なんて突っ掛かってくるくせに、今日は珍しくそれがない。
まだ、寝ぼけている所為もあるのかもしれないけれど、これはたぶん。
(ない頭使ってなに考えてんだか)
両手で子供のように紅茶を飲む猫舌なシオンにバレないように、あたしは苦笑を漏らした。
「ただ、あんたが変なこと言いそうだったから、あんたを呼んだだけよ」
金糸に隠れていた耳をピクリと微かに動かし、ゆっくりと顔を上げるシオン。
そんな彼に、にこりと笑みを返してやる。
邪気は、ない(つもり)。
彼は一瞬だけリビングへと繋がっている、今は閉められている扉を見詰めて、すぐにまた視線を俯かせ、紅茶の表面を見詰めた。
あたしは、わかりやすい彼の反応に、ただ、苦笑を浮かべるしかなかった。