Another Novel

□pluie 〜fantoccini〜 1
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 出逢ったあの日は、大嫌いな雨だった
















「ちっ………降りそうだな」




 見上げた空は低く、分厚い雲に覆われている。
 今にも雨が降り出しそうな天気に、意識せずともつい眉根が寄ってしまう。


 微かに漂う水の匂いに尚更嫌気を感じて、止めていた足を再び動かした。












pluie 〜fantoccini〜
(プロローグ)













「ん。……久しいな。どうした?」




 訪ねた城でオレを迎えたのは、この城の主である銀の吸血鬼…ユーリだった。


 たぶん、取り巻きの蝙蝠達からオレが来たことを知らされていたんだろう。
 オレの周りを翔んでいた蝙蝠が、今は彼の肩に留まっているし。

 普段はあまり意識しないが、そういう所を見ると彼はやはり吸血鬼なんだな…と改めて実感する。
 だって、人間達の中に普通に溶け込んで音楽関係の仕事をしているしな…。




「この前借りた本を返しにきたんだ。どうもな」

「そうか。わざわざすまんな」




 借りていた2冊の本の表紙を念の為に確認してからユーリに手渡せば、彼はその本を少し眺めてから小脇に抱えた。




「哲学的な書が好きなのだな。今日も何か持っていくか?」

「いや。今日はもう帰る」




 雨が降り出しそうだからな。と、言いかけた途端、長身の男が扉を開けて慌ただしくやって来た。
 右手にはポットを、左手にはカップを持って獣の耳をぺたりと下げている様がなんとも情けない。



 つか、面倒くせぇ奴が来た…。




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