Another Novel
□INDECLINABILITE
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目を、あけた。
突如生まれた自我。そして、存在。
暗闇の中で、私は目をあけた。
生み落とされたばかりの赤子のように泣きはしないが、
生まれたばかりの私に周りの総てを理解することなど到底できはしない。
暗闇の中で、誰かが啜り泣く声が聞こえる。
何も解らない。
何故、自分がここに立っているのかも。
ただ、啜り泣く声が聞こえていた。
ゆっくりと、誰もいないベッドの上から視線をずらせば。
――そこに、いた。
暗闇の中で、艶やかな銀糸が音を発てず、揺れている。
ベッドの下で蹲り、子供が一人泣いていた。
泣いているその子は突如現れた自分に驚いたりはせず、涙で濡れた顔をただ静かにこちらへ向けてきた。
―――泣いてる。
途端、自分の双眸から何かが流れた。
存在を赦され自我を持ったばかりの自分には、それが何なのかわからなかった。
だが、ベッドの下で蹲るその子と同じものを流したのだということは解った。
――これは、何。
蹲る子供の、銀糸の隙間から赤い双眸がこちらを見上げ、見詰めている。
その赤が、何故か、心地よかった。
けれど、その子の流すそれが、嫌だった。
――これは、何。
――この気持ちは、何。
――このいらだちは、何。
――このやるせないような思いは…何。
赤い双眸が私を見上げ、力なく揺れていた。