Another Novel

□claustration
1ページ/12ページ



 ―――ジャラッ…




 頭上で、金属のぶつかり合う音がした。
 その耳障りな音は自分が身動ぎをする度に鳴り響く。


 …何故だか腕が痛い。


 覚醒したばかりの脳では全てを理解するなど到底難しくて。
 薄く開いた隻眼には薄暗く、何もない部屋が映った。

 見覚えのない部屋が目前に在り、つい小首を傾げてしまう。




 ――はて。こんな部屋、ユーリの城にあっただろうか。




 そんなことを考えていると、両腕に軽い痛みが走った。
 それにつられて頭上を見上げれば、自分の腕は頭上に上げられ鎖で繋がれていた。


 何だコレ……


 怪訝に思いながら身動ぐが、鉄製のそれはちょっとやそっとでは外れそうになかった。
 だが、壁に凭れるように床に座らされている今の姿勢は妙に落ち着かず、少しでもマシにならないかと胡座を掻く。




 ――にしても、自分でも不思議なくらい落ち着いているなぁ…。




 文字通り、拘束されている。

 見覚えのない、狭い部屋。
 鎖で繋がれている自分。

 いつ、こんな場所に運ばれたのか判らない。


 確か…ぼくは、ユーリが仕事先に迎えに来いって言うから、リビングを出て…







 ……あれ?







 何故か玄関ホールに出た記憶がなかった。

 ということは、リビングを出た瞬間に意識を失ったということか?
 でもどうして…。


 考えてみても何も思い当たらず、再度首を傾げてしまうばかりだ。

 大体、誰が何の目的で自分をこんな処に閉じ込めたというのか。

 明りは石造りの壁に掛けられている蝋燭の微かな灯しかない、そんな薄暗い部屋を見渡す。


 すると、ふと、部屋の中央の辺りから人の気配を感じた。
 だが、そこには誰もいない。




(……なんだ…?)




 訳の解らない気配を感じつつ、その場を見詰めていると…







「やっと、眼が覚めたんだ…?」







 くすり、と。


 何もない筈の空間が歪み、笑った。

 否。
 実際には何もない空間に突如歯を見せ笑う口だけが浮かんだのだ。


 驚いた顔が、凍り付いてしまう。




「…誰、だよ……」




 やっとのことで絞り出せば、その口は更に笑った。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ