Another Novel
□claustration
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―――ジャラッ…
頭上で、金属のぶつかり合う音がした。
その耳障りな音は自分が身動ぎをする度に鳴り響く。
…何故だか腕が痛い。
覚醒したばかりの脳では全てを理解するなど到底難しくて。
薄く開いた隻眼には薄暗く、何もない部屋が映った。
見覚えのない部屋が目前に在り、つい小首を傾げてしまう。
――はて。こんな部屋、ユーリの城にあっただろうか。
そんなことを考えていると、両腕に軽い痛みが走った。
それにつられて頭上を見上げれば、自分の腕は頭上に上げられ鎖で繋がれていた。
何だコレ……
怪訝に思いながら身動ぐが、鉄製のそれはちょっとやそっとでは外れそうになかった。
だが、壁に凭れるように床に座らされている今の姿勢は妙に落ち着かず、少しでもマシにならないかと胡座を掻く。
――にしても、自分でも不思議なくらい落ち着いているなぁ…。
文字通り、拘束されている。
見覚えのない、狭い部屋。
鎖で繋がれている自分。
いつ、こんな場所に運ばれたのか判らない。
確か…ぼくは、ユーリが仕事先に迎えに来いって言うから、リビングを出て…
……あれ?
何故か玄関ホールに出た記憶がなかった。
ということは、リビングを出た瞬間に意識を失ったということか?
でもどうして…。
考えてみても何も思い当たらず、再度首を傾げてしまうばかりだ。
大体、誰が何の目的で自分をこんな処に閉じ込めたというのか。
明りは石造りの壁に掛けられている蝋燭の微かな灯しかない、そんな薄暗い部屋を見渡す。
すると、ふと、部屋の中央の辺りから人の気配を感じた。
だが、そこには誰もいない。
(……なんだ…?)
訳の解らない気配を感じつつ、その場を見詰めていると…
「やっと、眼が覚めたんだ…?」
くすり、と。
何もない筈の空間が歪み、笑った。
否。
実際には何もない空間に突如歯を見せ笑う口だけが浮かんだのだ。
驚いた顔が、凍り付いてしまう。
「…誰、だよ……」
やっとのことで絞り出せば、その口は更に笑った。