Another Novel
□crybaby sky
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あの日、空と一緒にキミは雨の中、独りきりで泣いていた。
crybaby sky
目を開けた時、世界は真っ暗だった。
何も見えず、何もなかった。
だから、それが『世界』だと思った。
まぁ、そう思うのも無理はないと思う。
だって、生まれて初めて目を開けるという行為をした際、辺りは暗くて実際に何も見えていなかったし、もし見えていたとしても、生まれたばかりの僕にはそれが『ナニ』なのか未だ判らなかったのだから。
(――……ココ、は…?)
徐々に、暗闇に慣れてきた視界へ最初に映り込んだのは、無言の黒い箱。
何もない部屋の中央で、それは静かに横たわっていた。
(――あぁ………かんおけ…)
そうだ、あれは棺桶だ。
生まれたばかりの赤子のようなはずの脳は、瞬時にそれを理解する。
僕は、朧な意識のまま誘われるようにそれへ近付き、触れた。
すると、突如頭へ流れ込んできたのは見覚えのない映像。
まるで、何かの映画を早送りで観ているような、それ。
全部、知らない。
僕は知らない。
だから、コレは僕のじゃない。
コレは、僕の『記憶』じゃない。
だけれど、それは情報や知識として絶えず頭の中へ流れ込んできて、僕はそれを何故か当たり前のように受け入れていく。
そんな映像の中で、最後に流れてきたのは、この黒い棺桶と同じ物。
その香に噎せ返ってしまいそうな程の沢山の薔薇が敷き詰められた棺桶の中を、僕じゃない『ぼく』が、滲む視界で見詰め。
何度も何度も、その頬に触れ、銀糸を掬い、名前を紡いでいた。