Another Novel

□rain
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「…ん?どうした?」




 緑色の髪を伝い、ポタポタと垂れていく雫をそのままにユーリの前で立ち尽くせば、彼は不思議そうにまた小首を傾げた。


 それでもボクは、自分の足元を見詰めたまま動かない。



 すると、彼はふと両腕をボクへ差し伸べ。


 ふわりと、笑んだ。





「拭いてあげるから、おいで?」





 優しく紡がれたその言葉を聞くや否や、ボクは彼の膝の上に、彼と向き合うような格好で座っていた。



 ……あ。服も濡れていたんだった。

 座ってからそう気が付いたけれど、ユーリにそれを気にする様子は全くなく、ボクの頭を傍にあったタオルで拭いだした。


 ぱさぱさと揺れる前髪の隙間から、何となくユーリの紅い双眸を見詰める。

 相変わらずその瞳は優しく細められていて。



 ボクは何故だか急に、泣き出しそうになってしまった。

(実際、泣いてはいないけれど)





「そういえば、ここへ来た理由を訊いていなかったな。何かあったのか?」




 そう問う声は穏やかで、優しい。


 なんとも言えない安堵感に包まれ、ボクはまた泣き出しそうになってしまった。


 なんでだろう……。




「……なんとなく、だよ………」

「…そうか」




 うそ。


 本当は、ユーリに会いたいと思ったから。


 だって、あいつはいつもユーリの傍にいて幸せそう。

 それを少しだけ………………ううん、すごく狡いと思っていたから…。


 だから、今日はあいつがいないようだったし。

 今日は、大嫌いな雨が降っていたし。



 だから、………。





「拭き終わったぞ」




 まだ微かに湿っているけれど、雫の垂れなくなった髪に触れる。

 微かに洗濯物の柔らかい匂いが移っていた。




「………ねぇ、ユーリ」

「ん?なんだ?」




 俯いたまま問えば、ユーリはボクの体を支えながら小首を傾げた。


 その手は微かに冷たいはずなのに、何故だか心地よいほどに温かくて……。




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