Another Novel
□pluie 〜fantoccini〜 4
5ページ/12ページ
「……大丈夫、か…?」
問い掛けに返事をしたいが、急激に渇いてしまった喉ではうまく声が出ない。
出そうとすれば、激しく咳込んでしまいそうで。
代わりになんとか1つ頷くも、戻した視線は自分の手元を捉えたまま動かない。
「………………………」
いつの間にかオレは、硝子片を手にしていた。
「……それ、棄てるから………寄越せ」
隣で吸血鬼が何かを言うが、オレにはなんて言っているのか解らなかった。
ぼうっとしてしまっている脳では、何も考えられない。
何も、理解できない。
というより、再び頭の中で鳴り出したノイズの所為で、うまく聞こえなかった。
ざぁざぁと降り続ける雨音。
頭中にそれは木霊し、何も聞こえないよう周りの音を掻き消してしまう。
けれど、狂ったように歪んだ世界に、
そっと差し出された、白い手。
それを捉えて、助けを求めるようにオレは顔を上げた。
あぁ……この、映像は……………………。
ゆっくりと見上げた視界に映ったのは、
眩い銀糸を風に靡かせ、優しく、そっと微笑んでいる………
吸血鬼の顔。
『―――…スマイル』
「……うるせぇ」
「…ぇ?」
オレの顔を覗き込むように、隣にしゃがんでいた吸血鬼の体を押し退ける。
そうすれば、突然の出来事に全くついていけてない奴は、その軽さもあってか、簡単に後方へ尻餅をついた。
オレはそんな奴を気にするでもなく立ち上がり、
そしてふらふらとデスクに近付いていった。