Another Novel
□pluie 〜fantoccini〜 2
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オレは、彼の言葉に「そっか…」とだけ曖昧に返し、顔を背けた。
取り敢えず、ここから移動しなくては。
先程から、行き先など全くないのに、体がこの場所を拒み、何処かへ行きたがっている。
いや、ただ、雨音が聞こえて嫌なのだろう。
少しでも、雨音のしない処へと体が逃げたがる。
けれど、何故か脳がそれを拒む。
体は逃げたがっているのに、脳がその望みを妨害していた。
実際、体はベッドの上から動く気配を見せていなかったから。
そんな微妙な状態の中、オレはただ呆然と、脇に下ろした左腕を見下ろしていた。
「………ねぇ、お前の…名前は?」
静かに、だが、凛とした声が耳へ届く。
「………ぇ?」
「私は…瑠璃。……ねぇ、お前は?」
立てた膝に肘を当て、頬杖のように手を頬へ添える彼。
瑠璃色の瞳が、微かに揺れていた。
「――知らねぇ」
そう一言呟き、オレは再度顔を逸らした。
だって、本当に知らないのだ。
自分の名など。
理由も解らず、先程生まれてきたような奴に、最初から名前が付いている方が可笑しいだろ。
何故だか、そのことが気に喰わない。
胸の内に靄が掛かるのを確かに感じた。
けれど、それと同時に沸き上がる、疑問。
オレは何に対し、怒りを感じているんだ?
大体、この世に存在したばかりのオレは、何故雨音ごときに惑う?
いや。
根本的なことを考えれば、何故『オレ』は今ここに、突如生まれた?
『オレ』はいったい……誰の…………。