Another Novel

□三日月とアメと
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(押し潰されそうだ…)





 息苦しくて、逃げ場を探すように見上げた夜空には、優しい光を放つ三日月。

 だけど、街の明かりに掻き消されそうなその脆さが、儚さが、
 厭に今の自分と重なって見えてしまった。




(でも、オレがやらなきゃ…)




 辛くないわけがなかった。

 解っていた。

 ガキな自分が親の代わりになるということは、想像するよりもそう容易ではないと、確かに解っていたはずだった。

 だから、弱音を吐く暇などないほどに、無理に毎日をバタバタと過ごして。
 少しでも気持ちを紛らわせたくて。



 だけど、辛いんだ。



 嫌だと逃げ出してしまえれば楽だけれど、今のオレに逃げ場所なんてない。
 自分が、なんとかしなければならないから。

 遺された弟達の為に。


 やると決めたのだから、辛くてもオレがしっかりしてやらなければ、アイツ等にもっと寂しくて辛い想いをさせてしまう。

 そんなことは嫌だから。
 だから、足掻き続けている。


 でも、オレの、唯一の逃げ場となるあの場所には、頼りになる人達はもういない。
 解ってる。

 そうだ…助けてくれる両親はもういないんだ…。

 泣き喚いても逃げ出しても辛くても。


 誰も、いないからこそ、




(…オレがやらなきゃ…、)




 オレがアイツ等を助けてあげなきゃ、誰がアイツ等を助けてあげるんだ?

 約束しただろ?
 オレが助けてやる、護ってやるんだと…。
 オレが、両親の分まで、代わりに、アイツ等を幸福せにしてやるんだと。


 そう、約束しただろ?


 目を閉じ、俯いて、脳裏に浮かんだのは幼いながらも必死にオレを支えてくれている、アイツ等の屈託ない笑顔。




(やらなきゃ。なにがなんでも)




 けれど、そう考えたって、なかなか顔を上げられない。

 背負ったモノが、ガキのオレにはやっぱりデカすぎて。
 重すぎて、辛すぎて、痛すぎて。


 ただ、不安に押し潰されないよう、必死に足掻くしかなくって……










「――…ネェ?…下ばかり見てると、ダレかにイタズラされてしまうよ」










 そんな時、突如頭上から聞こえた声。


 その声の印象は微かに冷たいようにも思えるけれど、何処か愉しそうで。

 オレはそれに誘われるように顔を上げようとしたのだが、それと同時に髪を思い切り引っ張られた。




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