Another Novel

□三日月とアメと
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 解って…いるんだ。

 そんなこと。

 無理だって。

 無理なんだってこと、痛いほどに理解している。
 現状がまさに『無理』だと突き付けてくるから。


 オレ1人が藻掻き苦しんだって、それでどうにかなるほど現実は甘くない。
 毎日毎日、体力は疎か精神までも擦り減らし、いつ倒れても可笑しくはないこの状況。
 どんなに頑張ったって、どうにもならない現実。


 だけど、それでも、




「……それでも、」




 オレはアイツ等を放したくはないから。

 アイツ等も、離れることを拒んだから。


 だから養子にもならず、兄弟4人、一緒にいる為に、
 オレが頑張ると決めたんだ。




「アイツ等に、約束したんです。
 両親の代わりに、オレは絶対に、いなくならないって…」




 泣きじゃくりながら、1度だけ、
『おとうさんとおかあさんにあいたい』
 そう訴えたアッシュに、

 オレの重荷にならないよう、絶対にその言葉を言わないようにするコウとヘキに。




「親父とお袋の代わりに…オレが、アイツ等を…幸福せにするって………約束、したんです」




 それは至極難しく、辛いことなんだってこと、解ってる。

 痛いほどに理解している。


 だけど、

 だからこそ、




「……見守ってやって…下さい」




 どうか、これ以上、家族を奪わないで下さい。
 大切な家族を、取り上げないで下さい。


 後半はもう、嗚咽に掻き消され自分でも何を言っているのか、辻褄の合ったことを言っているのかすら殆ど判らなかった。
 だけど、それでも伯母はオレの言葉を聞き逃さぬよう、静かにオレを真っ直ぐと見詰めてくれていて。

 そうして数分が経った頃、小さく溜息を零した。




「……いいわ、やってみなさい。
 ただし、責任は全て貴方が背負うの。
 誰の所為にもできない。もしかしたら、心無い誰かに後ろ指を指されてしまうかもしれない。それでも最後まで貴方があの子達の為に責任を負うの」




 冷静なその言葉に、深く頷く。


 それはもう、両親を失い、アイツ等を抱き締めたあの時から覚悟している。
 逃げ場は、拠り所は、もう何処にもないんだと。

 オレが、アイツ等を護るんだって。

 オレだけが、アイツ等を護ってやれるんだって。


 覚悟はもう、疾うにできている。




「……でもね、もしも駄目だった時は……どうしても辛くて仕方がなくなった時は、ちゃんと私に言ってね?最低限のことは、私がなんとかしてあげる。
 私が、あの2人の代わりに、貴方を助けてあげるから…」




 そう言って、頭をそっと撫でられた感覚が擽ったくて、
 悲しいくらいに懐かしくて、


 オレは暫くの間、子供みたいに泣き続けていた。




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