Another Novel

□三日月とアメと
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「すみません、お待たせしました」




 ものの数秒で身支度を最低限整え玄関へと向かえば、そこにはやはり困惑を隠せないでいるコウと、その目の前に見覚えのある女性。
 両親の葬式にいた、お袋の姉……親戚の伯母だ。

 オレに気付いた彼女はそっと頭を下げ、指で外を示した。




「お時間、頂けるかしら…」




 そうして2人で向かったのは、近くの喫茶店。

 静かな店で、オレ達の間にだけ流れる、何処か冷えきった空気。
 その緊張感と空気の重さで、彼女が何を話したいのかなんてだいたい判る。

 彼女に比べればまだまだガキなオレだけど、オレだってそう馬鹿じゃない。




「……これからのことだけど…」




 ほら、予感的中。

 運ばれてきた珈琲には手を付けず、オレはじっと彼女の次の言葉を待っていた。
 それは、息が詰まりそうなほどに長く、厭に短く感じられたような数秒間。

 静かで落ち着く店の空気が、この瞬間だけは酷く不快でならなかった。




「やっぱり、無理があると思うの」




 ゆっくりと発せられた言葉数は少ないけれど、結構な威力だった。

 だってそれは、何処かではやっぱり、常にオレも考えていることだから…。




「確かに貴方は真面目で、きちんと弟さん達のことを考えて、何が最善か、何が正しいのか、必死に探っては弟さん達の為に尽くし、あの子達を大切にしてるわ。
 だけれどね、解るでしょう?それだけではやっぱり、どうしても無理があるんだってこと…」




 穏やかだけど、その眼は冷静にオレの図星を突く。



 解っている…。

 解っているんだ。

 今の状況では、駄目なことくらい。




「妹達の遺産はそう多くはないけれど、確かにある。それに、貴方は学校を辞めてまで毎日必死に働いてる。それは誰が見ても、必死なんだってちゃんと解るわ。
 でも、それでも……現実は甘くない」




 まるで、親に叱られている気分だった。


 正しいことを、言われてしまっているから。
 オレの不安を、ズバリ言い当てられてしまっているから…。




「弟さん達の学費、貴方達の生活費、その他雑費、今後を見据えての多少の貯蓄……まだ子供な貴方に、全て、どうにかできるの?」




 …解っている…。




「これ以上、あの子達に寂しい想いをさせたくはないでしょう?
 勿論、貴方にも」




 解っている…。




「貴方1人で、最後まで、全部を背負えるの…?」




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