Another Novel
□三日月とアメと
3ページ/13ページ
そうしてあれから何ヶ月かが過ぎ、漸く幼いアッシュも両親の死を、子供ながらに理解していった。
でもそれは、まだ小さすぎたアッシュには辛いことで。
毎日毎日、彼は泣いていた。
まるで、周りを心配させまいと、頑なに弱さを見せないよう振る舞う兄達の代わりに…とでも言うように。
その涙が涸れることはなくて。
だから、ヘキもコウも、オレも、アッシュに対して『泣くな』なんて辛いことは言わない。
その代わり、彼が決して独りで泣いていることがないよう、誰かが常に傍にいるようにしていた。
(…それでも、オレが仕事行くの、すんげー嫌がるんだよなぁ)
売れれば、結構な収入を得られる職業。
今はまだガキで酒を扱えないからただの下働きだけれど、人付き合いには自信があるし、いつかは絶対に稼いでやる、と意気込んで雇って貰ったこの仕事。
それが嫌だとかではないんだろうけど、アッシュはオレが仕事に行こうとする度に、ああして泣き騒いでしまうのだ。
たぶんきっと、両親みたいに何気なく出掛けていった身内がまた突然いなくなってしまう…と、そう思っているんだろう。
だから、オレだけでなく、誰かが出掛けることをあの子は頑なに拒むんだ。
(…トラウマに、なっちゃったよな…)
だって彼は、まだまだ親に甘えていたい盛りだ。
だのにある日突然、無条件で甘えさせてくれていた両親はいなくなってしまって。
オレは仕事で疲れ果てなかなか遊んでやれないし、コウとヘキには学校がある。
きっと満たされない彼の心はいつも孤独で…。
(……ごめんな…)
帰りに、朝早くでも何処か店が開いていたら、弟達に何かお土産を買って帰ろうと決めて、
オレは地球へと繋がっている扉を静かに開けた。
□■□■□
「――にぃ、…ハク兄」
「……んぅ…?」
それは、弟達の学校が休みだったある日。
少し戸惑ったような表情のヘキに、オレは静かに起こされた。
「ごめんなさい…」
「いや、いいよ……どした?」
夕方から朝まで仕事という、完璧に昼夜の逆転してしまった(しかも、今はまだ余裕を見つけられていない)生活を送っているから、最近は太陽の光が多少キツイ。
そんなオレを申し訳なさそうに起こしたヘキが珍しく、少しだけ、ほんの少しだけ不安そうな色を滲ませているから。
何かがあったんだと、瞬時に理解。
「……おばさんが…」
そして、その言葉で状況を理解した。