R短編
□あかい雨傘12
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「は?親子?」
頑なに態度を変えないロイドと、そんな彼の主張を全く意に介さないクラトスと、複雑な表情で彼らを見守る幼なじみ達を見かねて、ぜロスはつい居間を提供してしまった。
重苦しい沈黙のなか、一番初めに耐えきれなくなったのはやはり家主であるぜロスであった。
とりあえず何か話そうとロイドに話し掛けると、彼はポツポツと事情を語り始める。
ロイドは元々早くに両親を失い、育ての親であるダイクと二人で暮らしていた。
中学を卒業する頃、そのダイクが病に倒れてしまう。
父思いであるロイドは高校へは進学せず就労する決意を固めた。
ところがある日、いつも通りダイクの見舞いに訪れると、父の病室には見知らぬ人物が待ち構えていた。
誰なのかと尋ねる前に、ダイクからとんでもない事実を突きつけらる。
聞けば眼前の男はロイドの実の父親だと言う。
随分前から父親・クラトスとは連絡が取れていて、ロイドの学費等の金銭的な面倒は全て彼が見ていたと言うのだ。
いつかは親元に返そうと考えていたこと、自身が倒れたのを切欠にロイドと離れることを合意したこと。
そして当事者であるロイドには全て事後承諾で、何を言う暇もなく彼は現在在学中の全寮制の高校へ入学させられてしまった。
単純にロイドは事実を受け入れられなかった。
突然現れ父親然とするクラトスのことも受け入れられなかったし、何よりどう接したら良いかわからなかった。
多感な時期に起こった大きな事件はロイドの中で上手く昇華出来ず、混乱した彼は学園ひいては友人達の前から逃げ出してしまう。
そうして逃げ出した先で出会ったのがぜロスであった。
苦し気に語るロイドに、ぜロスの心中は複雑だった。
訳ありだろうとは思っていたが、もっと軽い動機の、ただの家出だと軽視していた。
それが一人の少年の人生を揺るがすようなものだったとは。
「……」
「…迷惑かけて、ごめんな。ぜロス…」
話終えたロイドは、閉口したままのぜロスに力なく謝罪する。
何も言わないでいるぜロスの態度が、迷惑を被り不快であるとロイドに誤解させていることに彼自身気付いていない。
「本当にごめん…」
もう一度謝罪の言葉を口にする彼の表情にハッとして、ぜロスは慌てて口を開いた。
「ちょっとロイド君借りるから!」
「え、ちょ、ぜロス…?!」
ロイドの腕をしっかり掴んだぜロスは、居間を出た先の廊下へ彼を連れ出した。
居間の扉を閉めた所で、ぜロスは改めてロイドと向き合う。