恋すてふ
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「うぁー…やっぱり降って来ちまったかぁ…」
ドックの入り口に突き出した僅かな屋根に縋り、扉に背を預けたまま雨を凌いでいる。
今朝方の空はぐずついた曇天が広がっていたが、雨が降りそうな様子ではなかった。
恐らく降らないだろうという微妙な願望混じりの予想に仕事後の自身の身を託したが、この様だ。
普段のこういった小さな予想さえ外れるのだから、ここぞという時のギャンブルも巧くいかないはずだとパウリーは苦笑する。
気温を著しく下げ始めた雨足に肩を震わせた彼は、仕方ないと溜め息を一つ吐くと、濡れて帰ることを決意し屈伸を始めた。
『こんな所で何やってやがるッポー』
屈んで露わになった項にポツポツ落ちる雫は、数滴垂れただけですぐに遮られた。
同時に耳慣れた声にパウリーは、顔を上げる。
視線の先には、先に帰宅した恋人の姿。
「いや、傘忘れたから雨宿りしてた」
『今日はもう止まないッポー』
「そうなのか?」
『はぁ…』
キョトンとした表情で首を傾げる眼前の男にルッチは思い切り溜め息を吐いた。
『迎えに来て正解だったッポー。風邪なぞひかれたら堪らん。帰るぞッポッポー』
呆れた様子でぶっきらぼうにパウリーの腕を掴むルッチは、冷えた彼の身体がこれ以上濡れないよう極力傘の内側に引き寄せた。
「帰るって、ルッチの家にか…?」
『…夕飯を作ってやるッポー』
僅かながらに優しさを含んだルッチの声音と、常より幾らか柔らかい表情に思わず胸が温かくなる。
人通りも見られない道を二人きりで歩いているのだから、今日くらいは大胆になっても良いかと自分を納得させて。
ルッチの腰に腕を回すと、倣うように背に手の平が添えられる。
「…迎えに来てくれて、その…ありがとな」
呟くような台詞でも、彼は自分の言葉は決して聞き漏らさない。
ルッチは喉で笑ったあと、そっとパウリーのこめかみに唇を落とした。
『礼ならベッドの中で貰ってやるッポー』
至極当然に言ってのけたルッチに、今度はパウリーが笑った。