M短編2

□この手が届かなくとも
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「ねぇ、ゼロス」

「なぁに?コレットちゃん?」

宿屋に泊まろうが、野宿になろうが、ロイドは決して鍛錬を怠らなかった。
それが今や敵対してしまったクラトスの教えが基づいている結果と聞けば、心中は複雑だったが。
ゼロスは懸命に剣を振るうロイドの横顔を見詰めるのが好きだった。
時折鍛錬に誘われることもあったが、いつもやんわりと断りを入れるのだ。
君の横顔を見たいからなどとは、口が裂けても言葉にはしないけれど。
そうして常のように鍛錬に打ち込むロイドの横顔を見詰めていると、彼の幼なじみに話しかけられた。
煌々と輝く金色の髪を靡かせた少女は、微かに笑んだあと口を開いた。

「ゼロスは、ロイドのこと‥好きなんだよね」

「!‥それは、コレットちゃんもでしょ?」

内密にしている訳ではないが驚くことではあった。
だが、自身の気持ちに気付いた相手がコレットならば納得はいく。
コレットもまたロイドのことを自身と同じ意味合いで好いているのだから。

「うん。ロイドは私の太陽なの」

「太陽、ね。俺様にとってもハニーは光なんだよねー」

そう言ってゼロスは未だ素振りを続ける少年に視線を向けた。

彼は、誰にとっても手の届かない光だ。
過去の闇に囚われている自分たちを優しく救済し、眩い光の元へすくい上げてくれた。
それは万人に同様に接するため、決して自身だけの腕の中に収めておくことは出来ないのだ。
ゆえに腕を懸命に伸ばして、彼が自身を忘れないようにいつでも存在を誇示していなければならない。

自己犠牲の精神が強い彼女が深い闇に呑まれないよう、いつも引き止めているのはロイドだ。
同時に四肢を絡め取られ身動きひとつ出来ないでいた自身を救い出したのもまたロイドだった。

「‥私たち、同じだから‥。だからきっと、ロイドに惹かれるんだね」

「だろうねー」

同じものを欲しているからこそ、コレットの言わんとしていることはよく解っていた。

「けど、俺様はロイドを譲る気は全くないぜ」

射るような瞳を女性に向けたのはきっと、コレットが最初で最後だろう。

「うん。望むところだよ!」

コレットは軽く面を喰らったのち、可愛らしく微笑んだ。

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