M短編2
□せめてあなたを抱きしめることができたら
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どうか、どうか、泣かないでおくれ。
愛しいひとよ。
「…また、ルッチに泣かされたんか」
あの獣は微塵も物に固執しない。
それでいながらこの眼前の男だけは、決して手放しはしないのだ。
琥珀色の液体がゆらゆらと浮かぶ氷と静かに混じり合う。
隣でカウンターに伏せる男の頬を伝う冷え切った涙も混ぜてやってはくれないか、と、ぼんやりと考えていた。
「…いや、俺が勝手に傷付いてるだけだ」
頭が痛い。
いや、適当な部位を挙げているだけで、本当に痛いのは左胸だった。
感情は殺しきった筈なのに、この男はそれを無理矢理起こすのが得意らしい。
きっとそれもただの職場の同僚という関係だけなら、起こらなかった。