M短編2
□ヒロイン
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「ルッチに秘密…作ってしもうたなぁ」
「……っ」
俯いたパウリーの後頭部を撫でながら、耳元でそっと囁く。
「別に言わんよ。パウリーさえ、わしの願望に応えてくれれば」
「!…願望…?」
一縷の光に縋ろうと、思い切り顔を上げたパウリーを見て、カクは昔読んだ何処かの海の小説の主人公にそっくりだとぼんやりと思った。
結果的に主人公はよじ登った蜘蛛の糸を切られ、血の池地獄に真っ逆様だったのだが、パウリーもまた似たような状況である。
今から叩き付ける言葉に一体どんな表情をするだろう。
考えるだけで胸が躍る。
「わしと付き合うんじゃ。ルッチとは別れんでええ」
「……は?」
「勿論恋人同士の付き合いじゃよ?ちゃんとキスもして、セックスもする」
愉しげに語るカクとは異なり、何も言えないでいるパウリーは目を見開いたまま放心している。
それから自覚したのか、カタカタと身体を震わせ始めた。
「安心してええよ?わしもルッチみたいに溺愛してやるから」
ニッコリ。
音をつけるなら、まさにそれが相応しかった。
未だに震えるパウリーを優しく両腕で包み込みながら愛の言葉を囁くと、カクは満足げに笑った。