M短編2
□あかい雨傘
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その日、珍しくサービス残業したバイト帰り。
ぐずついた曇天から突如降り出した雨に、慌ててコンビニに駆けた。
束でブリキの入れ物に立てられたビニール傘を適当に一本見繕うと、レジ前に気だるげに立つ店員に差し出した。
そうして、水たまりが幾つも重なったアスファルトを自宅に向かってひたすら歩く。
既に時計の針は深夜と言える時間帯を指し示している。
僅かに濡れたパンツの裾と、静まり返った辺りが家を恋しくさせる。
消えかかっては僅かな間灯る街灯を通り過ぎ、ゼロスは歩みを速めたのだった。
漸く自宅が見え始めた頃、エントランス前の植え込みにうずくまる塊を見つけた。
「…?」
元来好奇心が人一倍強いゼロスは、興味を惹けばそれを探求しなければ気が済まない性格だった。
うずくまる塊が捨てられた動物ならば、一言謝罪を述べて中へ入るだけだ。
そんな軽い気持ちで近づいた彼は、直後大変驚くことになる。
「オニーサン」
「…は、俺さま?」
確認する前にその塊に声を掛けられ、酷く狼狽する。
焦るゼロスをよそに頭を持ち上げたそれは、彼を真っ直ぐ見つめて、そしてにっこり微笑んだ。
「オニーサン、俺を拾ってくれない?」
「は、はいぃ?!」