M短編2

□せめてあなたを抱きしめることができたら
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どうか、どうか、泣かないでおくれ。
愛しいひとよ。

あなたの声はわたしの耳を優しく擽る。
あなたの幸福に満ちた笑みはわたしをも幸福な気分にさせる。
あなたの慈愛に満ちた指先はわたしの心を熱く灼け焦がすのだ。

ああ、だから。
どうか泣かないでおくれ、愛しいひとよ。

あなたの涙はわたしを溺死させる。
あなたの啜り泣く声はわたしの胸を深く鋭く抉るのだ。

わたしには絶えず零れ落ちるあなたの涙を優しく拭う指がない。
わたしには哀しみに暮れるあなたの震える肩を抱き締める両の腕がない。

ただ居るだけのわたし。

愛しいひとよ。
どうか、どうか、嗤っておくれ。

あなたを抱き締めることも出来ない愚かなわたしを。

そしていつか、どうか愛しておくれ。
愛しいひとよ。

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