M短編2
□ヒロイン
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「な、パウリー。わしと浮気しよう」
「……は?」
いつもと変わらない極上の男前スマイルのまま言い放った言葉に、思わず気の抜けた声が出た。
そして直後、通常に働き始めた頭をフルに回転させると次々に疑問と突っ込みが湧いてくる。
「あああの、カクさんん?!なんで、浮気なんだよ?俺別に誰とも付き合ってない」
言い終わるや否や、カクはパウリーの薄い唇に自身の人差し指を押し当てた。
案に黙れと言っているのか、何か別な意図があるのか、どちらにせよ眼前で笑む男前はパウリーの言葉を真に受けるつもりはないらしい。
「うそ。わし、知ってるんじゃよ?この前パウリーがルッチと1番ドックでヤラシイことしとったの」
「なっ…?!」
ヤラシイなんて完全に語弊を招く言い方だ。
確かに彼が言うように、パウリーとルッチはそういう間柄だった。
二人を包む雰囲気がそれらしいものになれば、そういったことに及ぶこともある。
だが、あの日はカクの言うような行為はしていない。
パウリーは慌てて頭を振った。
「そ、そんな誤解だろ!あの日俺らはなんも…っ」
そこまで言いかけてハッとする。
カクの表情に違和感を感じたのだ。
先ほどまでと同じように、人好きのする笑みだと言うのに何かが違う。
僅かに瞳に翳りを見たパウリーは咄嗟に口を噤んだ。
「ふーん…。やっぱり付き合うてるんじゃな」
「…やっぱり…?」
「そう。ずっと二人に違和感を感じとった。でもこの前ルッチの目を見て確信したんじゃ」
淡々と吐き出される言葉と同じように、淡々とパウリーに近づくカクは、壁に背を預ける彼の目前に迫ると手首を掴んだ。
「ルッチはわしと同じなんじゃって思った」
「おん、なじ…?」
「わしも、パウリーが好きじゃってこと」
やっと絞り出した問い掛けとは裏腹に、彼の返答はハッキリしている。
戸惑いを隠さないパウリーを見下ろしたカクは、おもむろに彼の顎を持ち上げた。
そのまま至極当然に唇を重ねた。