Short Story

□夕日の色を写したようだ
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肴様リクエスト
擬人化ネイティオ×ネイティ
*-+-*-+-*-+-*-+-*



 先生は可愛くない。
 全く可愛くない。

 男の人が可愛いのは…まあ、なんだか変な感じだけども、外見がどうとか、そういう意味ではなくて。
 はっきり言って、内面が全くもって可愛くないのだ。

 コーヒーがなくなってたから新しく入れ直したのに、それを『余計なお世話です』で一蹴って、どうなの!?



「で…飛び出してきたの?」
「だって!」



 がちゃん!とカップとソーサーが激しい音を立てる。カップの中身が少しだけ溢れたけれど、私にはそれを構っている余裕はなかった。
 オープンテラスに居る周りの人が何事かと振り返り、ロッサ──ロゼリアの女の子である──は、その視線に気まずそうに咳払いをしてから、テーブルに頬杖をついた。



「でも、そういう人ってわかってたのに付き合ってるのはアンタでしょ」
「う…」



 図星をつかれて言葉につまる。確かに、先生が気難しい(そりゃもう皆が近寄れないくらいには)人だってことは、身に染みるように知っている。
 知っているけど、それでも、『余計なお世話』は効いた。ぐっさりと私の心に突き刺さった。

 俯いて頭を垂れた私に、友人が小さくため息を吐いたのがわかった。



「じゃあさ、もしかしたら極度の恥ずかしがりやで、お礼を言えない人なのかも」



 ロッサの言葉に顔を上げた。何が『じゃあ』なのかがわからない。ロッサの表情は、イタズラをする子供のようだ。



「恥ずかしがり屋?」
「そう。だから『余計なお世話』ってのも照れ隠しだったりして」



 『案外、耳とか赤くなってるかもよ』と言われて、耳を赤くした先生を思い浮かべてみるが、うまくいかなかった。



「…想像付かない」



 眉をしかめて言えば、ロッサは笑っただけだった。



***



 結局ロッサは用事があるからと帰ってしまって、私は一人で夕暮れのカフェテラスに座っていた。
 カップの紅茶もすっかり冷めてしまって、白磁のカップが夕日に染められる。その色は、先生の目の色のように見えた。



「此処に居たんですか、ティア」



 名を呼ばれて、弾かれるように顔を上げた。
 オープンテラスの向こう側、低くなった街の石畳の上に、いつもの様子で先生が立っていた。



「随分探しました。…一人でお茶を飲んでいたんですか?」



 問いかけられているのに、あまりの驚きで声が出ない。
 私が何も言えないでいると、先生は一つだけため息を吐いて、帰りますよ、とだけ。
 その言葉に私は漸く動けるようになって、伝票を持ってレジへと行けたのだった。



***



 村に着いて、それから無言で先生の後ろを歩き続けた。夕日はまだ、辺りを明るく照らしている。



「…よく、わかりましたね」



 無言に耐えかねて尋ねれば、先生はちらりとこちらを見てからすぐに前を向いた。それから暫くは何も言わなかったが、ふと思い出したように喋り始めた。



「…だから、探したと言ったでしょう。あまり手間をかけさせないで下さい」



 私は千里眼──私たちネイティオやネイティの特殊な能力である──が使えないんだから、と抑揚なく言われて、思わず俯いた。
 そして先生は続ける。



「お詫びとして、またコーヒーを淹れてください、美味しかったので


(そう言った先生はこっちを向かなかったが)
(耳が紅かったのは見間違いではないと思う)





20100112 aruku


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