Short Story
□さぁ早く、僕の元においでよ。
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「じゃあまた、何処かで」
「うん、またね」
彼女はニコリと微笑むと、相棒のムクホークに乗って、遠くへ去って行った。
その姿が次第に小さくなって、見えなくなってしまうまで見つめてから、僕は踵を返す。
「ダイゴ」
「…ミクリ…」
気付けば、振り向いた僕の前には、ミクリが立っていた。
呆れたように溜め息を吐けば、ミクリは優雅に笑って見せる。
ミクリの気配に気付かなかった上に、彼女を見られたなんて。一生の不覚だ。
「彼女は?」
「知り合いだよ」
「それだけ?」
探るような目に、少しだけ神経を逆撫でされた気がした。
…でもそれはきっと、ミクリに彼女のことを知って欲しくないという、ただの独占欲。なんてらしくないんだろう。
「…シンオウのチャンピオンを倒したトレーナー」
「シンオウの。へえ、それはすごいじゃないか」
「シンオウで度々出会って、随分前に僕の家においでといったのを覚えていたんだ」
浮かぶ光景。
初めて彼女を見た時、凄く申し訳ない顔をしていたのを覚えている。
その時に約束したことを、彼女は覚えていた。
「シンオウで…度々出会っては、ポケモンの話をした」
段々と強くなっていく彼女と彼女のポケモンを見ては、嬉しく思っていたのを覚えている。
…けれど今は、そんな彼女を見て、焦燥しか感じない、なんて。
「ダイゴ?」
ミクリを置いて自分の家に向かう。後ろから僕を呼び止めるミクリの声が聞こえたけど、無視して歩き続けた。
(彼女は、いつから)
最初に出会った時はまだまだ駆け出しで、純粋にポケモンと居れる事が楽しそうだった。旅を楽しんでいただけだった。
けれど彼女は次第に、ポケモンに対して、深い愛情と、友情を、感じ始めていて。
――気付いた時には、
(あんなにも、遠くへ)
全てのポケモンへの愛情と、全てのポケモンに出会いたいという好奇心。
まだ駆け出しだった彼女は、とうに、僕の元に来れるまでの実力を付けていた。
そして彼女にとって、僕に会いに来るということは、更なる高みを目指す為のただの通過点でしか、なかった。
――ならば、
「――ミクリ」
「ん?」
静かに僕の後ろを着いて来ていたミクリを振り返る。
「僕は、チャンピオンをやめようと思うんだ」
「――…!」
ならば僕が、彼女の、最大にして最後の壁になりたい。
さぁ早く、僕の元においでよ。
(どんな形であれ)
(彼女の中に残りたいと思う)
E n d ...
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2008.07.23.aruku
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