その他

□守られしもの
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たとえば 僕が神さまになれたのなら


もう一度 国になりたいと言えたでしょうか






たとえば 僕のお願いを聴いてくれるなら



もう一度 あの頃の私に 戻ってみせたいのです











守られしもの










あぁ 今 ラジオからは 玉音が流れている

あぁ 機械越しに流れる 上様のお声は

こんなにも 悲しい声をしていらっしゃったでしょうか







体中に巻かれた 痛々しく 所々赤黒く滲む包帯

思うように動かない右手 醜く肉が削げ返ってしまった左手



もう 枕元に置いているだろう

いつも肌身はなさず持ち歩いた あの愛刀も


手入れをせずいたから 次 鞘から抜き出すときは


ボロボロに砕けって 跡形もなくなってしまうのでしょう









あぁ 今まで私は色んな人に育まれ 守られてきた



この私の行く末を案じて 尊い命を咲散らした方々


もとあるべき姿のままでいなさいと 伸びゆく手から 必死に守ってくれた方々


これからの 私の行くべき道を
その身を挺して示してくださった方々



それ故に 不治の病を負いながらも
床に伏ながら 最後の最期まで 私を憂い 愛してくれた方


暴走を止めずに 狂うことしか他ならない魂と 共にその身沈めた方


消して私情を持ち合わさずに
けれども 私の居場所を築き上げ 私の背中をそっとおしてくれた方






あぁ 私は守られてばかり






国の威厳を保つためにと
望まずにもその役を買い 無念にも命途絶えられた方






あぁ 私はなにをすればよかったのでしょう






国の存亡を懸けた戦いに

決してその手に握られた采配を迷うことなく揮い 道標を指してくれた方々


明日 生きていく希望がなくとも

決して 揺るぎない魂を忘れずに散った 国民の方々









この期に及んで 私は守られてばかりで






「…         …っ」






あぁ、もう喉もやられてしまったのでしょうか…

とうとう 声が出せなくなりました





このまま 私消えてゆくしかないのでしょうか




なにもできずに

ただのうのうと この体が透けてゆくのを









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