歴史

□紫陽花の咲くころに
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「そん、な… 嘘だ…」


読み終えた文は 気がつけば所々滲んでて


目の前までもが 霞んで見えない














ねぇ 木戸さん



わすれろなんて 言わないで


淋しいこと 言わないで




あぁ そうやってあなたは
いつも 苦しんでいたのですね


追い詰めて 追い詰めて



一人 逝ってしまわれたのですね






「木戸さ…、ぼ く…っ 何も 言わ、なくて…っ」

「俊輔…っ」

「い…も、 怒、って たま…にっ 笑って…」





そんな素振り 一度だって見せなかったのに





「ごめ、ん…っ ごめ… ごめん ごめん…」


頭が追いつかないほどに 開かれた口で
壊れたかのように 次々と飛び出る"ごめん"の言葉





「木、戸さ… ごめんね ごめんねごめんねごめんね」

「俊輔…っ!!」

「…井上… …伊藤?」

「…っ狂助!!」




赦してやってとなんか 言わないで

忘れてなんて 言わないで






逝かないで――――



「ひぃーっ、ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねっ、ごめんね」

「これは…っ」

「わりぃ、市ィかヤジを呼んできてくれ… あと水と」
「…分かったっ」



情けなくも

今の自分は ヒステリックに泣き喚き


聞多に 苦しくなるほど
抱きしめられている










ほら 木戸さん


あなたがいなくなったら


こんなにも 悲しむ者がいるのです





聞多だって きっと涙堪えてる


狂助だって きっと悲しんでる


市ィなんて さっきずっと泣いてた
嗚咽を零さぬよう 必死で両手で目を擦ってた

隣にいたヤジも しゃっくり上げて
べそべそ泣いていたんだよ


大久保さんだって 青木君だって 福地君だって










みんなみんな 木戸さんが大好きだから





悲しまないはず ないですもの










「ごめんね… っく、ご…め …ね…」

「…俊輔ェ…っ」










ただ 空は蒼かった


その大きな空間に ぽつりと浮かんだ白雲が



どこまでも 流れるかのように





この空を 泳いでいった

















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