歴史

□紫陽花の咲くころに
4ページ/6ページ






―伊藤博文殿


敢えて 堅苦しいことは書きたくはないから


汚い字で悪いが 最後まで目を通して欲しい





そういえば 博文の名になってからは
文を出していなかったな


あれから もう十年以上経つというのに


身近にいたから 出すこともなかったし


出す必要もなければ 出す隙さえ ありはしなかった
今でも お前の昔を思い出すよ

初めて来原に連れられたお前は まだあんな子供だったのに



いつの間にか こんなに大きくなって



これからは この国を引っ張ってゆく
大役を任されるまでに 立派になったんだなぁ




でも 私はまだ心残りがある




今の今まで

特に お前と馨には 手を焼かされた


今はもう居ないが あの子にも







思い返すと 金がないだ 妓を買うだと


喚き騒がれたことしか 思い浮かばんなぁ

周布さんや来島さんに 何度言い訳したことか
これからは きちんとけじめをつけるんだぞ


まぁ 私が言えた義理ではないな














最後に


博文 いや、俊輔に聞いてほしいことがある








目の前の命あるもの 無碍に扱うな



そう お前に言い聞かせていたくせに




当の本人は 直接手を血に染めずとも

数多の命を 奪ってきた

見殺しにしてきた





示しがつかない と言いたいわけではない



ただ 裁かれるべきこの身が
今の今まで のうのうと生き続けてきた私を



赦してほしいんだ


もう 重たい枷から解放してほしいんだ







今更 天国にも地獄にもいけるとは思ってもいない




だから せめてもの


この哀れな男を 忘れてやってくれ



全ての記憶から 私という存在を


消し去って欲しい







お前なら 出来るはずだ



これが最期の使いとでも 言っておこうか












俊輔

可愛い俊輔



後ろから ひょこひょことついて来るお前が

いつだって 私の言いつけた仕事に文句一つ零さなかったお前が



あの蒼空のように 笑ったお前が




大好きだったよ















木戸 孝允―






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ