歴史

□紫陽花の咲くころに
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あれから 一週間



たった今
関係者も集まっての 大きな葬儀も終わり



僕は ぼんやりと
流れる 白雲を見上げている










木戸さん

あの時 なんて云いたかったのかな―



考えても 思い返しても

辿り着かない 胸の絡まった糸に悶えるばかり






「…俊輔っ!!」

はっ と声の元の方を振り向けば


「な… なんだぁ…、聞多かぁ…」

自分の 片割れと言っていいくらいの

たった一人の親友 井上馨



あちこち探し回ったのか

微かに汗の匂いが 香水と混ざって風に漂う




「…もんちゃん、もう僕"博文"だよっ」
「阿呆、それなら俺も"馨"じゃ…」


どこか 目をあわしたくないので

わざと 下の景色を眺めるかのように
顔を俯かせる




「あれから… もう十年かぁ…」

気が抜けきった声で 呟いた彼





「…何が?」


何か 核心を突かれたのかと思うと
今 訳の分からないものが零れ落ちそうな気がして




わざと 気のないように返事を返す



「…………」


「…………」



途切れた 会話


下では ぞろぞろと
参列者が 帰路へとゆっくり流れてゆく


帰る場所へと



待ち望む者のところへ―











「…これな… ずっと前から預かってたんだが…」

沈黙を破るように 聞多がすっと目の前に差し出したのは




「…文…?」
「あぁ、文だ。」



-伊藤 博文殿-

震える字で そう書かれた一通の文



「…なんで聞多が?」
「…ごめん …渡しづらくて…」





そう言い ぐしゃりと歪む 彼の顔




その顔を見るだけで 目頭が熱くなった



ばっ と彼の手から奪い取り

破らないように 少ししなった文をはらはらと開く







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