歴史

□紫陽花の咲くころに
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「木戸さん こんにちは」

暫くし 音が立たぬよう襖に手をかけ

真ん中に敷かれた 真っ白い布団の膨らみを覗きこむ


「…木戸さん?」


今日は 幾分調子がいいのか

ここ垣間見れなかった
心地良く寝息を立て 安らかに眠る
幼い 彼の寝顔



安心し はぁ と溜め息をつくなり

傍まで寄って 腰をかける


すると 布団の中が微かに蠢き
長めの しなやかに伸びた睫が震えだす


「あ… 起きましたか、木戸さんっ」
「ん… …しゅん… すけ…」

「"ひろふみ"ですよ」


覚束ない声に苦笑し

何時かの昔の名に訂正を入れ そっと彼の柔らかい黒髪に手を伸ばす

擽ったそうに ぎゅっと瞼を閉じる彼が
自分より 遥かに幼くみえる


ふと 布越しの二の腕に鳥肌が立ち
障子の外に目をやれば ポツポツと雨が降りだしている

「寒いですね 閉めましょうか」


スッ と立ち上がり
障子の方へと向かう







「ごめ… ん」

「…木戸さん?」








ポツリと 一言


たった一言 覚束ない 掠れた声で呟き






「木戸さん どうしたんです、いきな… り…」

「…………」






再び 真っ白な瞼を閉ざし


これ以上にない 穏やかな表情






結局 何に対して謝っていたのかは

直接 彼の口から訊くことはなく
















木戸さんは そのまま冷たくなっていった




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