歴史

□置き去りの手紙
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いたずらに さようならの言葉をつかい

君の 悲しみに揺れる顔をみるたび 安堵する気持ち


そこに 自分の居場所を確認する 寂しい自分



でも いつか "ほんとう"のさようならがくるとき



もう 会えないってなったときは


僕はちゃんと さよならといえるのかな









置き去りの手紙










素直になれないきもち 遠慮しあうきもち




それは 互いに相手を思いやることには変わりないのに



いつの間にか こんなに隙間 空いちゃったね



君から貸してもらった 形が歪な消しゴム

いつか返そうと思いつつ

今まで薄汚れたペンケースの奥に潜り込んでいたよ


こんな小さな無機物でさえも
君との思い出が 詰まっていて


使えば使うたび 君の記憶が消えそうになって


じわじわと鉛筆でかかれた 薄くて汚い字が滲んだ







おかしいね

人間って おかしいね


突き放せば突き放すほど 愛しくなるの

一つ一つの君の言葉が こんなにも恋しくなるの


求めれば 求めるほど 怖くなるんだ






変わりやすい 人間の心だから

あの雲のように 明日には流されて消えてしまうだろうから




明日には いなくなっちゃう気がするから





僕も 消えてなくなってしまいそうだから






ごめんね ごめんね



捨てることも 持っていくこともできない


なにひとつ 君にしてあげることができなかった





何気ない話に 素っ気なく返した返事

君の気持ちに気づいてながら 見ない振りばっかして

格好いい自分ばかりを見せようと 虚勢をはった僕




ごめんね ごめんね


君のことを 愛しているから


手探りで求めた 君への幸せのカタチ








そして 押し寄せる別れという波に飲み込まれまいと



意地を張って 躓きながらも 擦り傷だらけで必死になって走った僕










でも 違ったんだね


君は ずっと待っていてくれたんだよね?

それでもいいと 帰っておいでよと



ずっと ずっと 僕のこと 待っていてくれたんだね











あの時僕が感じた隙間は 隙間ではなかった




お互い 思いやって 遠慮しあっていても




ちゃんと この手繋ぎあっていたんだね










君の 言葉に沢山救われたんだ


底知れない優しさに
何度も 子供のように すがりついて泣きわめいたんだ



何度も何度も その肩に もたれ掛かりたくなったんだ











でも ありがとう



もう 僕はそれだけでいいから


もたれ掛かれる場所があったんだってことだけで 安心できるから

これからは 頼れる自分になるから



あと 少し 少しだけでも






僕だけが 君だけに出来ることをさせてくれるかなぁ







もう ずるいことはしないよ

君の悲しんだ顔は もうみたくないと


もう 帰る場所はあるって 知っているから



約束だよ 忘れないでね








ありがとう ありがとう



ずっと 忘れない


ずっとずっと この手は離さずにいよう?


また さようならのときがくるときまでは 一緒にすごそう


さよならのときがきても 明日には会えなくなっても


また 帰ってきてもいいかなあ…――――
















「こんなのアイツに渡すなんて… やっぱりできない…か」


カタカタと音を立て 窓の隙間から入り込む北風


ひらひらと舞い落ちる 真っ赤や真っ黄色の紅葉の絨毯




「…まだまだ自分も青いなぁ…」



呟く声が 教室の壁に寂しく響く




「……………ま、いつでも渡せるんだし… …あと…もう少しだけ…」




彼は そう自分に言い聞かせるように呟き

ガラガラと 傷だらけの教室の引き戸を引いた






その手紙は まるで持って帰るのを忘れられたかのように


無造作に机の上へ 置き去りにされていた







end




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