歴史

□だってあなた 冷たいもの
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「ねぇ 人が死ぬ瞬間を見たことある?」






どんより 曇り空

廟堂の中も 心なしか薄暗い気がする




たまたま廊下ですれ違った この親友を大輔室に入れたのだが






「…俊輔?」
「聞多は… …無かったっけ?」



かしゃり と飲みかけの紅茶を起き
向かいの二人掛けのソファーに座っていたのを 自分の椅子の肘掛けに腰掛ける







「ちょ、俊輔!!壊れるだろっ」
「ふふ… 聞多、」









人の話は ちゃぁんと目を見て聞かなくちゃ







自分の顎を掴み 耳元でそう呟く


思いも寄らない友の行為に 自然と身体が強張る





「しゅ… 俊輔…っ」
「ぱぁぁ…ってね 血が弾けるように飛び出るの」




目が合わさった事に満足したのか
無邪気に身振り手振りで語り出す





「とっても綺麗で… …とっても… 下らないと思った…」





ぱたん




今まで まるで役者のように舞っていた両手は 意志を無くしたようになだれ落ち





至福に満ちた笑みは 寒気がするような無になり果て




「人の命って… …あっけないものなんだと… こんなに簡単に壊せるものなんだと思った」




ぎぎぎ と不気味な音を立てるかのように
自分の方へと 顔を向ける









「ねぇ、聞多 聞多はさ…」















刹那











―パシュッ


「…っ…!!」




胸が 焼ける気分

いや、胸が… 焦げる感じ


たった一秒の間に 自分の身体に穴が開いて

何時かみた あの噴水の如く溢れだす 緋色の鮮血







「しゅ…んす…」
「ね、ほら もんちゃん… いま、凄く綺麗だよ…」



がたっ と何かを放り投げる音

部屋に蔓延する 硝煙の匂い






かつかつ と足音ならし しゃがみ込み

己の手で血の海と化した床を撫で 笑みを零す














「聞多は… 誰にも渡さないんだから…」












ドクドクと耳元が五月蝿く鳴る

目の前が 白い靄に包まれたように見えない





力が… 入らない…













「だぁいすき、もんた…」


































「あ゛あぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁっ!!」
「!?」
「なんだ!?」

晴れ渡る空 ギヤマンの窓から木漏れ日が覗く 穏やかな昼過ぎ



今も 廟堂では毎日のように行われる会議の真っ只中であるが…



「井上くん…っ、馨…っ!!」

誰かにガクガクと肩を揺さぶられ 段々と現の世界へと引き戻される


「どうしたんだよ…っ!! 聞多っ!!」
「…っ!!」














―だぁいすき、もんた










「聞多っ!?聞多ったら!!」




どうしたことか この男は先程まで涎垂らして居眠りをしていたはず




いきなり耳をつんざく絶叫をあげ
訳も分からないまま 再び自分の腕の中で気を失ったようだ




顔は青ざめ 右の瞼から一筋の涙が走る





「聞多…っ?!」
「木戸さん…っ」
「伊藤君、井上君を部屋に運んできなさい」


顔を上げれば 憎たらしいほど無表情な上司の顔


「うん、その方がいいね…」


これが 二人で初めて合致した意見ではないか


大久保と木戸は顔を合わせ 深刻そうな顔をした木戸が 井上の片腕を担ぐ







「聞多…っ」




























ねぇ、聞多



聞多って 死んだことあったっけ?









end



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