歴史

□紫陽花の咲くころに
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大好き


その声が 震えるのは


きっと あなたがいってしまうことを

拒みながらも 頭の隅っこでわかってしまったからなんですね
















紫陽花が咲くころに










皐月の終わり

淡い薄桃の花弁が 空に舞い

若葉の輝きに満ちた景色とは打って変わり

命芽吹く春へと名残を惜しむかのように
見渡す空には 曇天が続く







「まぁ… 今日もいらしてくれたのですね…」

「はい… …毎度毎度すいません…」

「何仰るんですっ ささっ、お上がりになって…」

伊藤は 言われるまま
木製の床を軋ませながら 奥の部屋へと案内される







「…それではごゆっくり…」

「…はい ありがとうございます…」




席を外す という
二人の中の暗黙の了解が 幾度と訪ねる間にできたのか


一人の女中を呼び

松子夫人は 玄関へと向かった









『ありがとう』



その言葉は なんだか言うには悪いような気がして

キラリ と光る白銀の簪を見つめ
そっと心のなかで 呟いた





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