過去の拍手お礼小説
□拍手お礼小説19
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「和さんまだぁ」
利央は二人きりの部室に退屈そうな声を響かせた。
「すまん。もう少しで終わるから」
和己は日誌用のノートにペンを走らせながら答えた。
その、自分を視界にいれない和己の態度に利央はイライラして、わざとパイプ椅子をギシギシと鳴らし、和己の邪魔をする。
しかしその耳に不快な音も、利央が「つまんない」「早く」と言っているように聞こえて、和己は思わず笑ってしまった。
「何笑ってんすか!?」
薄く笑みを浮かべている和己の大きな背中を睨み付け、口の中で「チッ」と舌打ちをした。
サラサラとペンを走らせる音と、ノートを捲る音が一定のリズムで利央の耳に届き、パイプ椅子の上で微睡みに包まれた利央は、そのまま瞳を閉じた。
「利央、待たせたな。帰るぞ」
眠りこけていた利央の柔らかな猫っ毛を和己は大きな手のひらでくしゃくしゃっとかき混ぜると、幼さの残る頬を突っついた。
「ん…あ…」
熟睡していた利央は、ゆっくりと目を開けて目の前の男を見た。
「和さん…」
はっきりとしない意識の中で利央が呆けた顔でいると、和己は制服の袖で利央の口元の涎を拭うと、「おいていくぞ」と言って部室を出ていった。
「俺、焼き肉食べたい!!ずっと和さんのこと待ってたんだから和さんの奢りね!!」
少し眠って機嫌の良くなった利央は、和己の前でにこにこ笑いながらくるくるとまとわり付きながら言った。
そんな我が儘ばかり言う利央に和己は嫌な顔一つせずに「はいはい」と再び利央の頭をくしゃくしゃっとかき混ぜた。
利央はその和己のする行為が大好きで、胸が一杯になる。
しっかり三人前は焼き肉を食べた利央は帰り道、和己の隣に立って月の光に照らされるアスファルトを歩いた。
隣に立って歩いているだけで心臓が破裂してしまうのではないかというくらい、鼓動は高鳴り、利央は和己にしられないように、制服の上から心臓を押さえつけた。
他愛のない会話をしながら利央は、なるべくゆっくり歩く。
少しでも一緒にいたい。
けれど利央の切ない想いは何時も少しの時間で絶ち切られる。
和己は門の前まできっちりと利央を送りとどけると必ずそのまま帰る。
その度利央は何時も「今日誰もいないんで寄っていきますか?」と聞く。
しかし和己が利央の家に寄ったことは一度もない。
我が儘を言ってただをこねたこともあった。
それでも和己はいつもの通り、利央の頭をくしゃくしゃっと撫でて、そのまま帰る。
その広い背中を見ると苦しくて息が上手く喉を通らない。