過去の拍手お礼小説
□拍手お礼小説18
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俺が榛名元希と初めてキスをしたのは中学の時で、誰もいないロッカールームの中だった。
突然壁に叩きつけられそのまま抵抗する間もなく無理やり唇を奪われた。
元希さんの舌は口腔の中をかき回し、俺の舌を吸ったり噛んだりしてくる。その感触に気持ち悪さを覚えた俺は思い切り奴の下唇に噛みついた。
ぱっくり切れた唇からは鮮血が溢れ、俺の口の中にまで入ってくる。
「ゔ…」
口の中に広がる鉄の味に吐き気が込み上がる。
唇を噛み付かれた元希さんはその痛みに眉をよせながら俺の身体を離した。
「タカヤ…お前…こんなことしてタダですむと思ってんのか?」
元希さんの目が怒りで鋭く光っていた。
その獣のような鋭い表情を俺は今だに忘れることが出来ないでいた。
俺は口の中に残る鉄の味に口をモゴモゴさせたまま何も言えなかった。
元希さんはもう一度噛みつくようなキスをすると何も言わずに肩からスポーツバッグをさげると、と大きな音をたててロッカールームを後にした。
窓からはオレンジの光が一本の筋になって俺の足元を照らしていた。
俺はあの日以来、血が苦手になった。見る度にあの味を思いだし吐き気に襲われた。
「阿部ッ!!当てられてるよ!!」
近くの席に座っていた花井に言われ、はっと顔を上げると黒板には白いチョークで英文が書いてあった。
慌てて立ち上がり英語教師の顔を見たが何を聞かれたのか分からなかった。
「すみません…聞いてませんでした」
俺は素直に頭を下げそのまま座った。
元希さんの顔が頭の中にちらちついて離れない。
なんで今さらあんな昔のこと思い出したりしたのだろうか。
俺の手は汗で濡れていた。そして口の中で鉄の味がしたような気がして吐き気が込み上がり口元を押さえた。授業は残り30分ほどあったがそのほとんどを上の空で受けた。。
昼休みになっても気持ち悪さは引くことはなく、胸焼けのような嫌な感触に弁当のほとんどが喉を通らなかった。
片付けようとしていたら田島がやってきて残りを食べていった。
「阿部くん…元気…ないの…?」
田島の隣から顔を出した三橋が心配そうに聞いてきた。
「あぁ…大丈夫」
適当に作り笑いを浮かべ、俺は栄口から借りていたノートを返すために廊下にでた。
ぬるい空気にむせかえりそうになって俺は足早に歩いた。
すると突然女子の甲高い声が耳に届きそれと同時に窓ガラスが大きな音をたてて割れた。そのガラスは太陽の光でキラキラと輝きながら俺の左腕に突き刺さった。
全てがスローモーションのようで、案外簡単によけられそうなのに身体は鉛のように重くて気がついたときには周りにいた生徒たちの悲鳴と、足元を転がるサッカーボールが廊下に滴った俺の血で赤く染まっていた。
痛みを感じるよりも血が溢れてくる感覚と生臭い匂いに頭が真っ白になる。