過去の拍手お礼小説
□拍手お礼小説17
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六月の中旬。
梅雨の時期に入り、窓の外はしとしとと朝から降っている雨がいまだに止むことを忘れたかのように窓を叩いていた。
この時期に雨に降られるのは野球部にとって痛手だったが天候までは左右できない。
「イッチャン先輩…?」
不意に大地に声をかけられて市原ははっとなった。
大地を部屋に誘ったのは自分なのに市原はさっきから窓の外を見たりやたらと時間を気にしたりとソワソワとしていて落ち着きがなかった。
「あ…ゴメン…なんか飲み物取ってくんな…」
大地に声をかけられその場を離れようと立ち上がったが、大地の大きな腕に右手を掴まれた。
「別に飲み物とかいいっス。それよりなんか話があるって言ってましたよね?何ですか?」
不機嫌な表情の大地に市原は視線をそらした。
気まずい沈黙が流れ、時計の音だけが部屋に響く。
市原の心臓は爆発するのではないかというくらいにドクドクと音をたて、顔は赤く火照ってくる。
口の中は乾いて上手く言葉が出ず思考回路も焼き切れてしまいそうだった。
どんな試合よりも緊張していることが自分でも分かっていた。
「あのな…えっと…その…」
ごにょごにょと唇を動かしてみるがなんと言っていいのか分からない。
いつもつまらない意地を張って素直に気持ちを伝えていないツケがこんな時に回ってきた感じだ。
市原はすーっと生温い部屋の空気を吸うと意を決したように口を開いた。
「あの…驚くなよ…。その…」
市原が二の句を言おうとした時、掴まれていた腕にさらに力を込められ、そしてそのまま大地の胸に引き寄せられた。
「嫌だ!!絶対に嫌だ!!別れたくないッス!! 別れたくない〜ヒクッ…クスン…」
大地は市原をぎゅっと抱き締めると幼い子供のように泣き出した。
「ちょっ…大地…別れるなんて言ってねぇだろ!!人の話しは最後まで聞けよ!!」
市原はフローリングの床に転がっていたティッシュで大地の涙と鼻水を拭くと、大地の顔を見ないで恥ずかしそうに言った。
「俺が言いたかったのは…別れ話とかじゃなくて…その…抱いて…欲しいって…言おうと思ったんだ…」
「イッチャン先輩…」
市原の顔は真っ赤になっていてうっすらと涙が滲んでいるようにも見えた。
すごく…可愛い…。
大地はゴクッと生唾を飲み込んだ。
まさか市原からこんな言葉が聞けるなんて思いもよらなかった大地は震えている市原の身体を優しく抱き寄せた。
「イッチャン先輩にそんなこと言わせるなんて…スミマセン…。俺もずっと我慢してました!! 俺に任せて下さい!!」