デュラ長編、高校生編

□翌日
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「おっはよーう!」

「あ、おはよー」

「おはよタカキ」

トリップしてから初めての朝。
三人はいつもの待ち合わせ場所である、校門前で顔を合わせた。

「今日起きて、戻ってたらどうしよって思ってたら寝不足なのよ俺…」

「さっき臨也君の寝癖が見てみたいって話しながら通ってった女の子居たから大丈夫よ」

「居た居た。まあとりあえず教室行こ?」

「おお良かった!じゃあ早く行って教室でぐっすり寝る!」

タカキが目を擦りながら眠そうに言う。
早くに来ていたアキホとサオリは、先程通った女学生の事を話し、教室へと向かい始めた。

「ところでさあ、何だか遠巻きに見られてる気がしない?」

「あー、間違ってはないと思うよ」

「見られてるってかガン見されてるよ俺ら」

教室へ向かう道のり、三人はそれはもう道行く生徒ほぼ全員に見られていた。
超ガン見されてます。

「あれか、昨日の帰りか」

「でしょうねー」

「皆見てたしね」

うわあ凄ェ、とタカキが小さく零す。
サオリとアキホはのんびりと先頭を行くタカキの後を追っていく。

なんとか好奇の視線を掻い潜り、自分達の教室へと辿り着いた。

「とうちゃーく!」

「いやあ大変な道のりでした」

「全くその通りです」

ほっと息を吐いた三人が教室のドアを開け、中に入る。

「あ!シズty」

タカキが席に着いて机に突っ伏している静雄を見つけ、ダッシュしようとした時。

『あ!凛堂さん達おはよう!ねえちょっと聞きたいんだけど良いかな!?』
『あ!私も!』
『帰りにどうしてリムジンなんか来るの!?』
『如月さんの家って極道?』
『超気になる!』
『ねぇ教えて教えて!』

教室内に散らばっていた女子達が一斉に3人を囲みこんで、次々と質問を投げかけた。

「ちょ、凄ェ人だかり!バーゲンかここは!ヘルプ!誰かヘルプミー!」

既に人の波に揉まれて死にそうなタカキが自棄気味に叫び、

「教室内はもっと凄惨だとは思わなかったわー」

同じく人垣に阻まれたアキホは諦め気味に呟き、

「僕ただの一般人なんだけど!とばっちり!」

完全に巻き込まれたサオリが必死に逃げようと人垣を掻き分け始めた時、教室の入り口から涼しげな声が聞こえた。

「おはよう、何してるの?」

『!』

その声に、ばっと人垣が割れ、教室の入り口に居る人物まで道が出来た。
そして女子達が今までより1オクターブ高い、黄色い声で応える。

『臨也君、おはよう!』
『今ね、浅月さん達に質問してるの!』
『昨日リムジンで帰って行くの見たのよ!』

教室に入ってきたのは、例の寝癖が見てみたい折原臨也さんでした。
ちなみに寝癖なんて物は彼の頭上には存在していません。
本日も大変完璧にキめられた髪型です。

「ああ、それなら俺も見てたよ」

女の子達に悩殺スマイルを振りまきながら、臨也は割れた人垣の真ん中を歩き始める。

「タカキ平気?背中に靴跡付いてるよ」

「マジで!?いつ踏まれたの俺!?誰に!?」

「僕は無関係です、強いて言えば二人の友達です、ただの一般人なんです」

人並みの中で溺れているタカキを引っ張り出したアキホが、タカキの背中を見て言い、タカキが制服の背中をバンバン叩き、サオリが遠い目で繰り返すカオスの中。

「俺も、ちょっと興味があるんだよね」

そう言って臨也が三人の前に立ちふさがった。

「…これは大変宜しくない状況かと思われますアキホ大佐!」

しゅぱ!とタカキが立ち上がり、敬礼しながらアキホを見る。

「本当ねー、じゃあタカキ中尉の怪しい素性でも話せばきっと満足してくれるよ。ゴー、さあ行け上官命令だ」

「僕ハ一般人デス」

「サオリさんは一緒に席に着いてようねー」

アキホが冷静にタカキを餌にし、サオリを宥めて席に連れて行く。

「大佐そんな!あれちょっと待って、もしかして俺囮?」

人垣の中に独り取り残されたタカキがぽつりと呟くが、時既に遅し。

「ハイ座って座って。本日午前のおやつはビスコですが、お一ついかが?」

「有難く頂戴仕る」

アキホが鞄から赤い箱を取り出し、席に座ったサオリに一つ手渡した時に、女子は動いた。

『なになに!?如月さんの怪しい素性って何!?』
『やっぱり極道なの?!』
『ええぇえ何なの?謎多き女子高生なの!?』

ぎゃあぁぁ、と更に密度を増した人垣の中でタカキの叫ぶ声が聞こえる。
先日餌を撒いたからか、臨也も此方をちらりと見ただけでタカキの近くから離れていない。
そんなにタカキの素性が知りたいのか奴は。

「シズちゃんおはよう、ビスコ食べる?」

タカキの叫ぶ声を聞き流し、アキホがくるりと振り向いて静雄に言う。

「…喰う」

「はいどうぞー」

眠そうに静雄が身体を起こし、ビスコを催促する。
こちらの頭にはぴょこりとした寝癖が存在している!
嗚呼、タカキに早く見せてやりたいw

「新羅おはよう…」

「おはようサオリ、朝から大変だね」

一方サオリは、隣の新羅に挨拶していた。
新羅はあの騒ぎの中をすり抜けて席に辿り着き、さっさと一限の準備をしていた。

「僕はただの一般人なんです…」

「うん、そんな感じがするから大丈夫だよ」

「新羅おはよーう、ビスコお食べー」

そこへアキホがすれ違い様に新羅の机にビスコを置いて行く。
アキホが席に座ったとほぼ同時に、タカキがボロボロになって人垣から出てきた。

「もう疲れた…帰りてェ、シズちゃんおはよう今日もマジ格好良いわ」

バターンと机に突っ伏すタカキ。
ガン、と頭を机にぶつけながら静雄に声を掛ける。

「はよ」

静雄が後半をスルーし、軽く挨拶を返しながら、こちらも机に突っ伏す。
二度寝です。

「タカキ」

「ん、なに?…お?」

ぺーいと後ろのアキホからビスコが飛んでくる。
何やら輪ゴムで手紙が括り付けられている。

『見事な囮役をありがとう。シズちゃん寝癖付いてるから見てごらーん』

「!」

手紙の内容を見た瞬間、バッと勢い良くタカキが真横に突っ伏す静雄を見る。

(マジだあああぁ!殺人的に可愛すぎんだろ!嗚呼もう駄目だ、俺今日これで一日頑張れる!)

真横でぴょこりと重力に抗う髪を見たとたん、荒み切ったタカキの顔が瞬時に笑顔にすり変わった。

ぐ!と拳を握って嬉しさを静かに表現しているタカキを、サオリは頬杖をついてじっと見つめ、一言。

「タカキって現金な子だよねぇ」

「うん、僕もそう思う」

「だから扱いやすくて良い子なんだよ、うん」

「ああ、うん分かる」

新羅も軽く頷いて、二人でタカキを見つめた。

「よし、じゃあ一限の準備でもしましょうかね」

アキホも一限の準備をし始めたとき、隣から声がした。見なくても分かります、臨也君ですよ。

「君の友達って、随分面白い子なんだね」

「でしょう」

「でも俺は君の事も気になるんだよね」

「いやいや私なんて何一つ面白い事なんてありませんよー」

はっはっはー、と乾いた笑いを零すアキホ。

「まあいいよ、時間は一杯あるしね」

ゆっくり聞かせてもらうよ、と臨也が呟いた時、学校内にチャイムが響き渡った。



波乱の登校時間
今日も一日始まるよ!

(俺、毎日これだと耐えられる自信が無いんだけど)
(あ、ビスコ美味)
(さーて先生早く来ないかなあ)

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