他ジャンルbook

□雪の帰り道
1ページ/1ページ



今日は朝から、県内全域に大雪警報が出ていた。
しかし部活が始まるまではちらちらとしか雪が降っておらず、予報は外れたかなと思いながら部活へと向かったのを覚えている。

「うーわ…」

そして部活が終わって窓の外を見れば、大粒の雪が分厚い雪雲からわんさか生産されて地上へもさもさと降り注いでいた。

「これは…困るな」

地面を見れば、いつの間に積もったのやら、30センチはありそうな雪が地面を覆い隠していた。

「悠チャン、なーにしてるのー?」

後ろから、先程更衣室へと消えた及川サンの声が聞こえた。
振り返ろうとした瞬間、後ろから背中に軽い衝撃が来て私のお腹に手が回り込み、抱きしめられた事を悟る。

「雪凄いから帰れるかなって思ってたの。ほら離して及川サン」

「あー本当だ、歩きはキツいかもねえ」

「離して」

「あ、悠チャン帰り送って行くよ!俺傘持ってきたから、相合傘で帰ろっか!」

「離せ」

後ろからぎゅうぎゅう抱きしめてくる及川サンに離れるよう促すが、及川サンの耳は耳としての機能を失っているようで聞いちゃいない。
ついに及川サンが私の頭に顎を乗せた時点で、徐に引いた肘を及川サンの脇腹に遠慮なく叩き込んだ。

「うぐっ…!今日もキレッキレだね…!」

「気持ち悪い事言ってないで、戸締りするから部室に残ってる人追い出してきて」

足元に崩れ落ちた及川サンを冷ややかな目で見つつ言うと、床とお友達になっている及川サンが倒れたまま言う。

「その冷たい目も良い…!あ、俺以外は皆帰ったよ」

「え」

「俺が最後でした!今日は岩ちゃんも居ないし、二人っきりで帰れるネ☆」

「ああ…そうだ岩ちゃん先に帰ったんだった…」

この及川サンを一人で相手せねばいけないのか…と思うと絶望感がひしひしと押し寄せてくる。
そんな私を見ながら、及川サンは立ち上がり置いてあったバッグを拾い上げて言う。

「ほら、鍵返しに行くんでしょー?」

「…うん、よし早く帰ろう」

よろりと歩き出して、自分の鞄を持とうとすると笑顔の及川サンに横から掻っ攫われる。

「鞄は俺が持ってあげる!」

「ああうんありがとう、でも手は繋がないからね」

「Σえっ!」

自分の鞄とかも持ってるくせに、片方に寄せて持ってわざわざ右手を開けた及川サンを見て言うと、なんでわかったの…と項垂れた。
残念ながら、及川サンが考える不純な事の7割位は解るんだよ。

「電気消すよー、はい消灯ー」

「ぎゃ!待って俺まだ中に居るって!」

パチ、パチン、と体育館内の電気を消していくと、項垂れたままだった及川サンが暗闇の中を悲鳴を上げながらこちらへと駆けて来る。若干ホラー。

「悠チャンって時々酷いよね…」

「及川サン限定ですがね。さて、鍵返しに行きましょ」

「え?それって俺喜んでいいの?」

「どーでしょーねー」

及川サンを適当にいなしながら真っ暗な体育館の扉に鍵を掛けて、鍵をチャラチャラ鳴らしながら職員室に向かって歩き出す。

「おいてっちゃいますよー」

「あっ待って待って!」

ばたばた走ってくる及川サンを横目に見つつ、真面目に今日はどうやって帰るか思案し始める。

「あー…、お母さん今日遅いんだよなあ…」

「なになに1人じゃ寂しいって?優しい及川さんが朝まで一緒に居てあげよっか!もー悠チャンは大胆な割りに素直じゃn痛い痛いふざけましたごめんなさい!」

迎えに来てもらうのは無理かなという意味で呟くと及川サンが調子に乗って喋り出したので、右手の甲を抓り上げて溜息を吐く。

「どうやって帰るか考えてるの」

「及川さんが送ってあげるって言ってるのに」

「及川サン家、反対方向でしょ」

「反対だけど、今日は岩ちゃん居ないし、こんな遅い時間に女の子1人じゃ危ないでしょ?偶には俺に送らせてくれないかな」

「ああ…じゃあ、お言葉に甘えて」

「マジで!やった!」

わーい真面目に言ってみるもんだネ!と嬉しがる及川サンを職員室前に放置して、体育館と部室の鍵を返しに行く。

「お待たせ」

「ううん!ほら帰ろ!」

機嫌の良い及川サンに結局手を引かれて昇降口までやって来て、持ってもらっていた鞄を受け取る。
ふんふん、と鼻歌まで歌いだした及川サンと靴を履き替え、校舎の外へ足を踏み出した。

「わ…真っ白」

「ほんと、結構積もったネ。よいしょ、ほら悠チャンこっち来てー」

「うん、お邪魔します」

相も変わらずもさもさと落ちてくる雪を見上げていると、及川サンが黒い大き目の傘をバサリと開いて私を呼ぶ。
素直に差し出された傘の下に行くと、及川サンの表情が緩んだ。

「ついに!悠チャンと憧れの相合傘!」

「はいはいそうですね。じゃあよろしく」

「任せて!ちゃんと送り届けるよ!」

にこにこしている及川サンと1つ傘の下、白い世界を歩き出す。
沢山の誰かが歩いた雪道には、ちょうど2人並んで歩ける位の道が出来ていた。

「悠チャン、道が出来てて良かったねえ」

「うん、ローファーに雪が入らなくて済みそう」

ぱさぱさと傘に雪が当たる音を聞きながら、2人でさくさくと雪を踏んで進む。
さりげなく道の端に寄って、ローファーの私が歩く道幅に余裕をくれる及川サンの好意は、ありがたく受け取っておく。

「及川サン、ありがと」

「いーえ!悠チャンの為だからネ!」

「あ、誰かがちっちゃい雪だるま作ったんだ」

「ああ、ホントだね」

ふと前を見ると、雪道を照らす外灯のすぐ横に掌サイズの雪だるまが外灯に照らされていた。
近付いてみれば、ご丁寧に小石を使った目と口まで付いている。

「なんか可愛い…」

「悠チャンもそういうの作っちゃう派?」

「時間と気力があれば」

「今は気力ある?」

「ある」

少し屈んで、手近な雪をかき集めてきゅきゅっと軽く丸め込む。

「及川サン、持っててくれる?」

「いいよー」

丸めた雪玉を及川サンに渡し、もう一度屈んで先程より一回り小さ目の雪玉を作る。
それを及川サンが持ってる大きい方の雪玉に乗っけて、小さい雪だるまを作った。

「はい完成」

「ザ・雪だるまだね」

「雪だるまですからね。持っててくれてありがと」

「いいえー」

そう言って及川サンから雪だるまを受け取り、先にあった製作者不明の雪だるまの隣に置く。
小石とかは見当たらないので、顔はないけど仕方ないよね。

「悠チャン、明日来たら雪だるま増えてるかもよ?」

「うん、誰かしらが同じ事やって増えてくだろうね」

「それを狙う悠チャンってば悪女ー」

「目指すは10個ね」

「100個くらい出来てるかもよ?」

「出来てたら凄い事になりそうね。…さて、帰ろっか」

「うん!雪やんだし、風邪引かない内にかえろ!」

立ち上がって手のひらに付いた雪を払い、傘を畳んだ及川サンと再び白い世界を歩き出す。

「あー、思ったより手が冷たくなった」

「手袋しないで雪触ったからでしょ。ほら悠チャン、手貸して」

「うん?」

傘が無くなって空いた左手を差し出す及川サンに、素直に右手を差し出すと、そのまま掴まれて恋人繋ぎにされた。

「わーあ恋人繋ぎだー」

「これも悠チャンとやってみたかったんだよネ!」

「10分5000円です」

「Σお高い!」

分割払いも出来ますよーなんて軽口を叩きながら、2つ並んだ雪だるまを残して2人で校門へと足を進めて行った。



雪の帰り道。
及川サンと一緒に帰る

(悠チャンおはよ!ねえ雪だるま50個位に増えてるよ!)
(なにそれ思ったよりも増えた)




.
この子達は毎度毎度付き合ってんのかそうでないかの線が危ぶまれる。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ