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□雨降りの金曜日
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「所長め最後に面倒な仕事押し付けやがってー!」
冷たい小雨の降る、薄暗くなってきた街中を駆け抜けて、見慣れた自分の家の扉を開けて中に飛び込む。
中には先に帰った威対が待っているはずだ。
「ただいま!威対っ!」
「…あっぶねえな、悠」
靴を適当に脱いで、キッチンに居た威対に全速力で思いっきり抱きつく。
正面から結構な勢いで突撃された威対は、悪態を吐きながら私に視線を落した。
「ああああったかい…!」
「おーおー、随分冷えてんな」
雨で冷え切った身体を威対の身体にしがみ付いて暖める。
そんな私の濡れた髪をくしゃりと撫でた威対は、目の前で湯気を立てる小さめの鍋に視線を戻した。
「…ん?なにそれ」
今更気付いたけど、威対がキッチンに居るのはかなり珍しい事だ。
暖かい威対の身体から首だけ離して鍋に目を向けると、鍋の中には白い液体がコトコトと音を立てて暖められていた。
「ヌエの乳。雨降ってきたのが見えたからな、悠が濡れて帰ってくると踏んでたんだが」
「あら見事に当たったわ」
「あァ。危ねェから離れてろ。火傷するぞ」
「はーい」
暖かい体から離れると、威対は普段しているグローブを外した白い手で湯気を立てる鍋の取っ手を掴んで、用意してあったであろう私のコップに注いでいく。
「…さむ」
「濡れてるからだろ馬鹿。シャワーでも浴びて来い」
「うん、でもそれ飲んでから」
コップを持ったままリビングへと向かう威対と、その後をゆらりと流れる白い湯気を追って私もリビングへ向かう。
「熱いぞ」
「はいはい、ありがと」
ソファに座った威対からコップを受け取り、柔らかいラグの上に座り込む。
そしていざ口の中に!という所で、上から伸びてきた白い手にコップを奪われた。
「あっ、ちょっと威対」
「下、濡れるだろ」
コップをテーブルに置いた威対に文句を言いかけると、威対の空いた両手を脇の下に差し込まれ、そのままラグから引き剥がされた。
「わ、!」
「暴れんな」
ひょい、と持ち上げられてソファに座った威対の足の間へと座らされる。
そのまま後ろから伸びて来た長い腕が、私の腰に絡みついた。
「おお…あったかい、ありがと」
「風邪引かれちゃ困るからな」
ぶっきらぼうに言い放たれた言葉に続いて渡されたコップを受け取り、今度こそ暖かい液体を喉に流し込む。
「ん…うま」
「そうか」
威対に寄りかかって、コップの中身を空にしていく。
最後の一滴まで飲み込んで、コップをテーブルに戻した。
「ごちそうさまでした」
「おー」
「威対のおかげで服も乾いたし、風邪引かないで済みそう。ありがと」
「ああ、だけどまだ髪が濡れてる」
横向きになり、寄りかかったまま威対にお礼を言うと、威対は未だ濡れたままの私の髪を触り始める。
威対の暖かい手によって、髪の毛が梳かれていく傍からふわふわと白い湯気が上がっていき、あっという間に髪も乾いてしまった。
「ふあ、…ん、やばい、眠くなってきた…」
乾いてからも髪を梳く威対の暖かい手に、眠気がそっと近付いてくる。
うとうとしそうになっていると、静かな威対の声が頭上から降ってきた。
「寝れば良いだろ」
「えー…もったいない…」
折角威対とゆっくり出来る週末が来たっていうのに、と眠気と戦いつつ言えば、事も無げに威対が言い放つ。
「まだ明日も明後日も休みで、一緒に居られるだろうが。少し位構わねェよ」
「う…じゃあ、少しだけ」
「ああ」
そう言って、眠気に誘われるまま瞼を閉じる。
「おやすみ…」
「おやすみ、」
額に柔らかい威対の唇の感触を感じてから、私は夢の世界へ飛び込んだ。
雨降りの金曜日
暖かい腕の中で
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威対さん大好きです威対さん。