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□強制一択
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「ああ…困った」

ぽつりと呟く私の前には暗闇が広がっております。
何故こうなったのか、そうあれは遡る事数分前の出来事でした。

『時間あるし、棚の上でも掃除しようかな』
『あれ?ちょっと手が届かない…っ!届かないぞ…!』
『あ、ジャンプしてちょっとずつ拭けば良いか!我ながら良いアイデア!』
『そうと決まればレッツトライ!』
『えいやっ!あれ?あ、ちょ、うわああ』
がしゃん、ガタン!ばらばら…ゴトン!

みたいな感じであっという間に全身棚の下敷きさ☆
いやあ一瞬だった。で、そのまま今に至ります。
結構凄い音がしたと思ったけど、誰も部室に来ないなんて部活熱心すぎて泣けちゃう。
じゃなくて誰か助けて、この棚倒れて来てもわりと大丈夫だったけど結構重くて動かないんだって!

「だーれかー、ヘルプミー」

「…え?」

カエルから空気が抜けてく様な声で助けを求めた時、がちゃりと部室のドアが開く音がして、誰かが部室に入ってきた。

「あっその声は研磨!ちょっと助けてヘルプミー!」

「え、悠!?ちょっと待ってて!」

部室の惨状を見て、疑問の声を上げるこの聞きなれた声は正に研磨!孤爪研磨!
これ幸いと助けを求めると、研磨はバタバタと応援を呼びに行った。

「ああ良かった…!」

これが見つかったの明後日とかだったら私干乾びてるわー!干物状態で発見されたらどうしようかと思った!
校内新聞に載っちゃうよ!あ、全国紙にも載りそうだな、『女子高生、バレー部室で圧死。死後2日か』とか。いや、でも部活終わったら見つかるだろうから死後2日はないか。
そうこう変な妄想をしてる内に、この部室に向かってくる足音が聞こえてきた。

「悠!大丈夫か!」
「悠さん!なんてお姿に!」
「犬岡そっち持て!」
「ハイ!」

バタバタと部室に入ってきたのは、声からしてクロと犬岡くん。
入ってきた二人は、手際よく私の上から重い棚を退かしてくれた。

「あー、助かった…!ありがとう、このご恩は一生忘れません!」

ボールやら本やらが散乱した床に引きずり出された私は、埃だらけになりながら二人にお礼を言った。

「悠さん、怪我はないですか!?」

「多分大丈夫!下、マットだったし」

「オイ悠…此処、腫れてっけど」

犬岡くんがが心配してくれたけど、柔らかいマットの上に居たし、全然平気!みたいな感じだったんだけども、クロが目敏く私の左足首の異常を発見し、ぐっと押した。

「ぎゃ!痛い!そこ痛い!」

途端に激痛が走り、私は尚も足を押し続けるクロの手をべしっと叩いた。

「痛ェ」

「私のほうが痛い!あれ?研磨は?」

手をさすりながら言うクロに怒った所で、助けを呼びに行ってもらった研磨が居ない事に気付いた。

「救急箱持ってくるって言ってた」

「おお、さっすが」

「それより悠さん、立てますか?」

「…う、…立てない」

ぴきーん、と走る激痛に自然と眉が寄る。
それでも何とか立とうと奮闘していると、横からスッと手が伸びてきた。

「掴まれ」

「ん、ありがとう」

クロが差し出した右手を有り難く握らせて貰うと、そのままぐっと持ち上げられる。

「わ、っと」

「歩けるか、」

「ああごめん、無理っぽい」

クロにそう答え、簡易ベンチに座らせてもらう。
あーあー、捻っちゃったのかなあ…と足をプラプラさせていた時に、部室に救急箱を抱えた研磨が戻ってきた。

「悠、大丈夫?」

「見たとおりー」

「研磨、湿布寄越せ」

「うん」

研磨が救急箱から湿布を取り出し、クロに手渡す。その湿布のフィルムをぴり、と剥ぎながらクロが言う。

「ほら、足首出せ」

「あ、ちょっと待って」

履いていたシューズと靴下を脱ぎ、足首をクロの方へ差し出すと、慣れた手つきで湿布が貼られる。

「うあ、冷たい。ありがと」

「ああ」

「犬岡、先生に先に帰るって言ってきて」

「わかりました!」

研磨に言われて、今まで私の周りでおろおろしていた犬岡くんがぴゅっと部室から姿を消す。
ご主人の為に頑張るわんこの様だ。

「あー、迷惑かけちゃってゴメンね」

「いい、それより悠の荷物持って来る」

「ありがとー」

ぱたりと部室の扉を閉めて出て行く研磨。
言い忘れたけど、彼は私の荷物が女子更衣室という魔の巣窟にあるのを知っているのだろうか。

「…悠」

「ん?」

湿布を貼ったままの体勢でじっとしていたクロが、不意に私を呼んだ。
くるりと向き直ると、何故か神妙な顔をしたクロがいた。

「なんでこうなった」

「ああ、暇だから棚の上でも拭こうかなーと」

「お前の身長じゃどう考えても無理だろうが」

「だから、ジャンプしながら拭こう作戦を決行したらこうなった」

「…はァ、」

私の説明を聞いたクロは、それはもう盛大に溜め息を吐いた。

「そんなモン、他の部員にやらせとけよ…」

「だって皆練習で忙しいし」

「とにかく、次はリエーフとか背の高いヤツに頼め」

「でも」

「でもじゃねェ」

「ぎゃああわかったわかりましたごめんなさい!だからちょっと手を離そうか痛い痛い!」

私が反論すると、物凄く爽やかな笑顔になったクロが痛めた私の左足首をゆっくりかつ力強く握り締めていったので、すぐさま謝った。
怪我人の怪我してるとこ攻撃するとか鬼かっ!

「クロの鬼…!悪魔みたいな頭しやがって…!」

「は、なんとでも」

「クロ、持ってきた」

「お、研磨サンキュ」

握られた足首が痛い…!と悶絶していると、私の鞄を持った研磨が部室に帰ってきた。
おお、女子更衣室からよく持ってこれたな!

「研磨おかえり、ありがとう」

「誰も居なかったから良かったけど、女子更衣室にあるなら先に言って欲しかった」

「ごめんね、今度アップルパイ作る」

「絶対ね」

若干疲れてた研磨の表情が、アップルパイと言う単語のおかげでちょっと和らぐ。研磨、アップルパイ好きだもんね。
女子の巣窟に行ってきたんだから、研磨の為に頑張ってアップルパイ作らねば!

「おし、んじゃ帰るか」

「え、なにクロも帰るの?」

「もう片付けだけだし、それに悠お前、その足で一人で帰るつもりか」

「え、帰っちゃダメなの?」

そう言うと、またもや盛大に溜め息を吐くクロ。
二回目だと流石になんか悲しいぞ!

「クロは悠の事、心配してるんだよ」

「それはわかるけどさ?」

「もう許可取ってきてあるから平気」

「えっ何ソレ聞いてない」

俺も帰るけど、なんて衝撃発言をする研磨。
ちゃっかり自分達も帰れるように先生に言ってたのか!

「不良生徒だ」

「怪我した女子を送ってくんだから優良生徒だろ、ほら行くぞ」

「悠、鞄は俺が持つから」

「えー」

「姫抱きにして持って帰るぞ」

なおも渋る私にクロが自分の鞄をリュックの様に背負いながら爆弾発言をする。
お姫様抱っこされて帰るとか何その羞恥プレイ!

「やめて下さい明日から学校来れなくなるんでマジで!」

いやー!と叫ぶ私を見て満足げなクロが、再び私に手を伸ばす。

「ほら」

「ああもう…お願い」

「おう」

「クロの鞄も持つ?」

「いや、俺はこのままでいい」

「ん、わかった」

クロに手を借り、足の痛みを堪えて立ち上がる。
立てた、と思った瞬間、体が浮いた。

「わあっ!?」

「っと、暴れんなよ」

すい、と伸びて来たクロの手によって足を掬われた私は、一瞬でお姫様抱っこされていた。
えっちょっと何、早業すぎる!

「ええ!?何故!何故にお姫様抱っこ!?」

「悠、暴れると危ないよ?」

「結局背負うかこれかの二択だろ」

「なんでこっちをチョイスしたの!?私重いしさっき嫌だって言ったじゃんか鬼!悪魔!背負ってくれた方がまだ良いんだけど!背負って!むしろ背負え!」

ばたばたしながら抗議する私に、いたって冷静なクロが無駄なドヤ顔で言う。

「悠1人なんざ重くねえし、さっき鞄背負っちまったしなァ」

「鬼ー!!研磨助けてヘルプミー!」

研磨に必死に助けを求めるが、すでに自分の鞄から携帯ゲームを取り出して起動させている研磨がぽつりと言う。

「お姫様だっことか、俺、途中で落としちゃうよ?クロと違って体力無いし」

「着眼点が違う!なんでお姫様だっこで帰るの決定してるの!」

「まあなんだ、諦めろ」

「ああ…これこそまさに死亡フラグだ…」

「研磨、帰るぞ」

「うん」

降ろす気がさらっさら無いクロに抱えられ、研磨に付き添われてお姫様抱っこされた私は、部室を出る今この瞬間から家に着くまで死んだ振りで突き通すことにして目を閉じた。
暗闇に包まれた視界の中、ついでに明日から一週間くらいは体調不良を理由に休む事にしようと思った。


強制一択お姫様抱っこ!
死んだふりで帰る放課後

(明日から暫く送り迎えしなきゃなァ)
(そうだね)
(えっ)

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