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□呼び出し!
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「う、ん?何これ?」

お昼休みに月島君と屋上でご飯を食べた後、教室に帰ってきたら机の中に置いてあった白い封筒を発見した。

「封筒?ラブレター?」

差出人書いてないし、秘密警察からの極秘任務みたいと思いつつ封筒を適当に破いて中の便箋を取り出す。
便箋まで白って今時珍しいよねー。

「うわ、これは…」

手紙の内容を簡潔にまとめると。
本日、午後四時。体育館裏集合☆
ラブレターじゃなかった、果たし状だった。

「女子の字、だよなあ…」

この丸っこい字は確実に女子の物。
と言う事は、月島君関係だろうか。
月島君モテるからなー。
えー女子から呼び出しとか初めてなんだけど。
やっぱり殴られたりするのかなー。

「というか四時って部活どうしろっての」

「悠」

「あ、月島君」

便箋を見つつ、部活出たいからすっぽかそうかな、だけどきっと後が面倒なんだよなーと独り言を言っていると、不意に横から月島君が現れた。
いつのまに!

「何それ」

「ああ、ラブレター的な」

「貸して」

ラブレターと聞いた途端にちょっと不機嫌になった月島君がひょい、と便箋を取って読み始める。

「…これ、行くの?」

「行っても行かなくても面倒になるけど、とりあえず顔だけ見に行こうかなと」

「ふうん」

男子からの物ではないと判断した月島君は、ぺっと便箋を私に返して自分の席へと戻っていった。
あれ?彼女が女子にフルボッコ予告されてるのに、そこは華麗にスルーするのね月島君。
そう思ったと同時に授業開始のチャイムが鳴った。
さらばお昼休み、いらっしゃい現国。








で、やってきました放課後。
五分前行動って大事だよね!と五分早く体育館裏についた私、の目の前には同じ学年の女子が四人。
物凄い睨まれてます、ついでに逃げられない様に囲まれてます。ザ・四面楚歌。
うわあこういう時使うんだね四面楚歌って。

「えー、と…呼んだの皆さん?」

「ええ」

冷え切った空気の中、そっと聞いてみると返って来る冷たい視線と簡潔な言葉。

「どういったご用件でしょう」

「月島君と別れて」

単刀直入に名も知らぬリーダー格っぽい女子が言う。
ああ、やっぱり月島君関係…と胸中でげんなりしていると、次々と女子が騒ぎ始める。

「なんであんたなんかが月島君と付き合ってるのよ!」

「月島君が可哀想じゃない」

「さっさと別れてくれる?」

「えー困る…いきなりそんな事言われても、別れる理由なんかないんだけど」

そう言うと、更にきゃんきゃん騒ぎ立てる女子。
あああ、ちょっと耳が痛い。

「月島君は優しいからあんたが嫌いでも振れずにいるのよ!」

「あんたと月島君、全然吊り合ってないから!」

「えー、話を遮る様で悪いんだけど、一つ聞いていいかな?」

「何よ!」

「私が別れたとして、その後はどうするの?」

自分が彼女になれるまで同じ事続けるの?と聞くと、一瞬黙る彼女達。
あ、やっぱりそうなんだ。と思うと同時に女子達が又も騒ぎ出す。

「別に関係無いじゃない!」

「いいからさっさと別れて!」

「別れないと後悔するわよ!」

「早く月島君から離れて!迷惑女!」

「なにそれ理不尽」

ところで、これはどうやって逃げればいいのかな。
あー、やっぱり来なかった方が良かったかなあ、と思っているとポケットに入れていた携帯が鳴った。
あ、この着メロは、

「…、月島君だ」

「じゃあ出て別れなさいよ!」

「そうよ!早く出て!」

「別れないと傷物にしてやるわよ!」

最早怒鳴っている彼女達の声をバックコーラスに、電話を手に取る。

「もしもし?」

『悠、まだやってんの?体育館の中にまで聞こえてくるんだけど』

聞こえてきた声は、気だるげな月島君の声。
後ろではボールが跳ねる音とか聞こえてくるから、部活の合間に掛けてきたのだろう。

「五月蝿くてゴメンね、もう少し続きそう。でね、何か自分達が付き合いたいから月島君と別れろって言われてるんだけど、そこの所どう思う?別れないと私が傷物にされるらしいよ」

『…は?』

おっと、今日最大に冷たい声が聞こえた。

『そこ、誰が居るの』

「えっと、同じクラスの林さんと、三組の安部さんと前田さん、あと名も知らぬ同じ学年の子。多分二組」

『わかった、待ってて』

プチ、と切られて通話が終わる。
待っててって、今から此処に来るつもりなのか。
これは修羅場になるぞ!既に修羅場だけど、と思う私を他所に、名前を出された三人はさっきの三割り増しで私を怒鳴り散らす。

「ちょっと!なに人の名前出してんのよ!」

「ちゃんと別れたんでしょうね!」

「名前出すなんて酷いじゃない!」

ああ、名前出した子は皆ゆるふわ可愛い乙女系女子の仮面を被ってましたもんね。

「無視してんじゃないわよ!」

元ゆるふわ系女子代表、前田さんに襟首を掴まれ、ぐいっと引かれたときに体育館裏に人影が飛び込んできた。
わあ凄い、なんと10秒程で体育館裏まで来ちゃったよ。

「ねえ」

びくり。完全に据わった、氷河期を思わせる冷たい目と地の底から出てきたような低い声に四人の女子が瞬時に凍りつく。

「悠に、なにしてるの」

ゆっくりと近づいてきた月島君は、私の襟首を掴んだまま固まっている前田さんの手を払って私を自分の方へ引き寄せた。

「、わ」

そのまま抱きこまれて、さっきまでの冷たい視線と声は何処へやら、屈んだ月島君の優しい声が耳元で響く。

「悠、怪我とかは」

「平気、ありがとう」

ぎゅーと抱きしめられていると、固まっていた女子がまた騒ぎ始める。
本人が居るから、教室内で見る可愛い系の仮面を被っているけれど。
わー本当、女子って怖い。

「月島君!私達は、月島君のためを思ってその子に相談してただけよ?」

「そうよ、格好良い月島君にその子は似合わないわよ?」

「月島君、別れたほうが良いんじゃない?無理しなくていいのよ?」

「他に好きな子が居るんじゃない?」

別れさせたいのは解るけど、こういうの、あんまり聞きたくないんだよなあ、と月島君のトレーナーの端を握る。

「…悪いけど、」

女子達の言葉を聞いていろいろ氷河期に戻った月島君が、四人の女子の方を向いて言い放つ。

「僕はあんた達みたいな低俗で傲慢な人間は嫌いだし、悠と別れるつもりは更々ないから」

「そんな…!」

放った言葉がグサッと刺さったのが見えるくらい悲しげな表情になった四人。
月島君に抱きしめられてるから声しか聞こえないけどきっとそう。

「それと、これ以上悠に手を出そうとしたらいくら女子でも容赦しないから」

最後に月島君がトドメを刺した所で、(女子は既に半泣き状態)体育館裏に向かってくる足音が聞こえてきた。

「月島!何でいきなり…あれ?」

ざかざかと音を立てて現れたのは、バレー部三年の旭さん。

「え、あ、取り込み中…?」

絶賛氷河期状態の月島君と、その月島君に抱きしめられている私、あと半泣きの女子四人という惨状を見て旭さんが止まる。

「、旭さん」

「…え、旭って…!」

「人身売買してるっていう…!」

ぽつりと月島君が呟くと、旭という人名に反応した女子達が更に凍りついた表情になる。

「え、っとあの」

「いやああ!」

「は、早く逃げましょう!」

「私売られたくなんかないわ!」

「やだ待って!置いていかないで!」

「ええー」

戸惑う旭さんが違う、と言う前に四人の女子は完全に泣きながら体育館裏から撤退する。

「旭さんの威力恐るべし」

静かになった体育館裏で、月島君にぎゅうと抱きしめられたまま呟く。

「…それ、櫻井か?」

「はい、勝手に抜け出してすみませんでした」

それ、と完全に背中側しか見えてない私を指差して旭さんが聞き、それを聞いた月島君が私を解放する。

「いやもう、ご迷惑をおかけしました…!しかし助かりましたありがとうございます流石旭さん!」

「あ、いや別に」

旭さんの方へ向き直ってお礼を言いながら深々と頭を下げると、旭さんは照れた様に頭を掻いた。

「えーと、じゃあスガ達には適当に言っておくよ」

「すみません、すぐ戻ります」

「旭さん本当ありがとうございました!」

気を利かせてくれた旭さんが体育館裏から姿を消し、残ったのは私と月島君だけになった。

「ごめん、」

「ええ何で月島君が謝るの、助けに来てくれたでしょ?」

「そうだけど、此処まで女子が酷いとは思わなかった…」

旭さんが姿を消すと同時に、再び月島君に抱きしめられ、耳元で謝られた。
いやいや月島君が謝る事じゃないって!

「月島君が来てくれたから怪我しなかったし、女の子達は居なくなったしで嬉しいんだけどなー」

「…」

「あれ?おーい」

ぎゅー、と私を抱きしめたまま、動かないし喋らない月島君の背中を撫でる。

「…悠、」

「ん?」

「次何かあったら、すぐ僕を頼って」

「ん、りょーかい」

耳元で小さく告げられた言葉に、思わず笑顔になる。
すると動かなかった月島君が不満そうに顔を上げた。

「なに笑ってんの」

「いやー、愛されてるなーと思って」

「当たり前でしょ」

そのまま触れるだけのキスをされて、シリアスモードから通常運転に戻った月島君がゆっくりと私を放す。

「さ、早く部活行かないとみんな待ってるでしょ?頑張ってね!」

「ん、悠も部活頑張って」

「うん、また帰りにねー」

「迎えに行くから」

「待ってるよー!」

それから月島君に手を繋がれて、そのまま二人で体育館裏から姿を消した。


呼び出し!
月島ファンクラブより地獄への招待

(いやー月島君格好良かった!)
(他の女子にも牽制しておこうかな)

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