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□月島君と放課後
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放課後の廊下の隅で、その事件は起こった。

「なにしてたの」

「…えーと?」

エマージェンシー、エマージェンシー。
只今、今世紀最大のピンチと遭遇中です。

「さっき、なにしてたかって聞いてるんだけど」

そう、この氷点下を思わせるような冷ったい視線を送りつつ、私を壁に押し付けているのは、まごうことなき私の彼氏である月島君。

「さっきっていつ頃?」

「教室にいたよね?」

「教室?」

相変わらず冷たい視線のまま、じっと見てくる月島君。
何か怖いから全力で教室にいた時の記憶を甦らせる。

「えーと、忘れ物して、此処まで取りに来て」

「で?」

「忘れ物とって帰ってきて、月島君に会ったけど」

起こった事をありのまま伝えたが、月島君は何だか更に不機嫌な表情になった。
なになに、なにしたの私。

「悠…なにか、隠してない?」

「え?いや、何も隠してないけど」

それを聞いた途端に、傍から見てもイラっとしたのが分かるほど超不機嫌顔になった月島君。
なんだか生きて帰れないような気がしてきたんだけど、全力で気のせいだと思いたい。切に。

「…教室でさ、」

「はい」

はあ、とため息を吐いてから私を見る月島君。
その声は恐ろしい程に低い。
思わず背筋がピンと伸びた。

「男に何か渡されてなかった?」

「えぇ…?何も貰ってないけど…」

「青い袋」

「あ、心当たりがあります」

貰い物には全くピンと来なかったけど、青い袋にはピンときた。
相変わらず不機嫌顔のまま、月島君に詰め寄られる。

「なんなの、あれ」

「あれが忘れ物なんだけど…」

「は?」

「だから、あれが忘れ物。取ってもらっただけだよ?」

これでしょ?と鞄から出した袋をみて頷く月島君。
取ってもらっただけ、と聞くと、すぐに私の肩を掴んでいた手から力が抜ける。

「…悪かった」

「別に良いけど、もしかして怒ってた理由ってそれ?」

首をかしげながら聞くと、月島君はバツが悪そうに答えた。

「そうだよ、悠があの男に迫られてると思ったの」

「まっさかー」

けらけらと笑っていると、話を変えるように月島君がさっきから持ったままの袋を指差して聞く。

「ところで、それ何が入ってんの?」

「あ、これ?月島君にあげようと思って」

はい、と袋から取り出して渡したのは、月島君の為に編みまくった薄青色のマフラー。

「……」

「…あれ?」

マフラーを持ったまま固まった月島君。
もしや気に入らなかったとか!?
青より赤とか違う色の方が良かったとか!?

あわあわと挙動不審になり始めた頃、月島君がやっと口を開いた。

「…ありがと」

「!、どうしいたしまして!」

そのままマフラーを短く首に巻くと、月島君は私を呼んだ。

「ちょっと来て」

「ん?」

そのまま近くに寄ると、上からくるりと首に巻かれた薄青色のマフラー。
これはあれです、二人で一本のマフラーを使用中という事です!

「うわあ」

「なにその声」

「なんか恋人っぽい」

「恋人でしょうが」

淡々と私の首にマフラーを巻き終えた月島君は、ん、と左手を私のほうへと差し出した。

「え、珍しい」

「別に良いでしょ」

「もちろん!」

差し出された左手を、右手でぎゅっと握る。
そのままそっと恋人繋ぎに直されて、月島君が言う。

「帰ろ」

「うん」

「今日はちょっと遠回りで」

「うん!」

という事で今日は、マフラーと手を繋いで月島君と仲良く帰りました。
いやもう、マフラー必死に作って良かった!



月島君と放課後
月島君の嫉妬

(暖かい)
(喜んで貰えて良かった!)

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