遙か3

□『利用』
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知らない筈の事を知っていて、
知っている事を知らないふりをして…
(逆鱗の事は信じて貰えないから)
 
有能と無知を装い、
そうして私は結局、皆を欺いている。
(皆の為だと
   言いながら)
 
 (貴方で、すらも)
 
 
『利用』
 
 
貴方を喪う運命のその二度共が、炎揺らめく終焉だった。
最初は、
仲間の全てを。
次は、
貴方だけを。
そして、私だけが―
いつでも生き残る。
この、無力な私が。
この、愚かな私が。
 
ヤリ直シタイ――!
 
だから私は時空を遡りまた最初から貴方と出逢ったの。
あの春の六波羅で。
 
「…み、望美?」
気が付けば、朔が不思議そうな顔で私を呼んでいた。
「…え…?」
だけど余りに自分の思考に潜り過ぎて上手く反応が出来なくて。
そんな私を見る彼女の表情が、どんどん曇っていく。
「貴女、とても辛そうな顔をしていたわ」
違う世界に来たばかりで、怨霊と戦って、疲れてしまうのが当然ね…と、優しい対の神子は気遣ってくれる。
今の私には、それこそが辛い。
朔からすれば私は此方に来たばかりの人間だけど、本当の私はもう数え切れない程の怨霊と戦い封印し、生きてる人間ですら殺している。でもそんな事は言えないから曖昧に笑うしかない。
「ちょっと、色々と考えちゃって」
嘘ではない、
でも全てではない。
逆鱗を託されてから身に付けた自分の狡猾さに吐き気を感じながらそう言うと、案の定朔は心得たように頷いてくれた。
「そうね、いきなり過ぎて不安に思うのは当然だわ。でも、一人で抱え込んだりしないで。きっと元の世界に帰る方法は見つかるから…そう、今日だって、五人目の八葉を見つけられたじゃない」
「…ッ!」
その言葉から強制的にリプレイされる情景に思わず立ち上がる。
「望美?」
「ごめん朔、ちょっと頭を冷やしたいの」
制止の声を無視して邸の庭の、奥へと突き進む。不審に思われただろう、賢くない態度だったし何より朔を心配させてしまった。
だけど―…
「…っ……」
 
ほろり
ほろりほろり
 
この涙を見られるよりはずっとマシ。
『五人目の八葉』
それは今日、
“出逢ったばかり”の彼の事、だった。
炎の中、二度も喪ってしまった彼――
「エ…く…」
いつだって自信に満ちていて、本気か冗談かわからないような囁きを寄越して…でも、頼りになる、信じられる優しく強い人。今の私の全てを満たす人。
 
恋をした、人。
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