見参!

□子供の事情。壱
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雨に濡れ始めた街が、通り過ぎていく。

「片倉さん、すいません…」
「こちらこそ…お詫びだと受け取っていただければ。」

いつも助手席に乗る政宗は、珍しく後部座席に座っている。
その横には、幸村を抱えた佐助がいた。
相変わらず顔をへばりくっつけたままの幸村を、心配そうに眺める政宗。

「それにしても、すごーい…ジャガーの古い型ですよね?」
「えぇ。燃料の食いぶちは激しいが、いい子ですよ」
「へぇ…羨ましい…」

そう呟いたのが余りにも心から出たからか、小十郎は気付かれないようにふと笑った。

「あの、ここらへんで大丈夫です。」
「雨も強くなってきましたし、御自宅の前までお送りしますよ?」
「あ、じゃあそこの角で…」

住宅街の一角にその車は停まった。
ハザードを点滅させ、小十郎は運転席を出る。
後部座席のドアを開けて、佐助を促した。
すみませんと車外へ出るが、雨が自分に当たらない。
上を見上げれば大きな黒い傘の下だった。

「わー!何から何まですみませんっ」
「お気になさらず。政宗様、少々お待ちを。」
「あぁ。幸村!またチャンバラしような〜!」

幸村は佐助の腕の中で頷いた。
それを確認すると、政宗はバイバイと佐助に手を振ってドアを閉めた。

黒い傘の下、小十郎と並んで歩き出す。


「随分嫌われちまったみてぇだな」
「…違うんです、多分。だから気にしないでくださいね!…あ、ここの二階なんです。」

と、佐助が立ち止まったのは停まった角にある、二階建てのアパートだった。
幸村を抱えたまま、佐助は深々と頭を垂れる。

「本当ありがとうございました。じゃあ」

階段には心許ない屋根が付いているものの、もう少し雨が強かったら吹き込んでいるだろう。
そう思いながら、小十郎は階段を上がり終えるまでその細い背中を見つめた。

「風邪引かぬように。坊もあなたも」

そう言い残して、傘下へ消えた。
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