見参!

□二人の事情。14200リク
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腕を延ばしたそこに、湯たんぽのふわふわした髪はなかった。
うっすらと瞳を開ける。


「…佐助?」


まだ薄暗い窓辺から、朝暮らけの藍色がカーテンの向こうに見えた。

もうすぐ夜が明ける。

少しだけ不気味に感じて、小十郎は裸体にガウンを羽織った。
何かがざわめく。
鳥肌が立ち、ドアノブに掛けた手が異様に冷たかった。
この時間ならば、新聞配達をさせている若い奴らが起きているはずだ。
ドアを開けても事務所の電気は点いておらず、ぼんやりと輪郭が浮かんでいるだけだった。

手を延ばしてスイッチを入れた。



「………なん、だ…」

この臭い


いつものコーヒーとバターの匂いではない。
まるで戦場の、血の生臭い独特の臭いだ。


「おはよう、片倉さん」
「佐助…?テメェ何して…」
「何って」


ソファの向こうで佐助が振り向く。

飛び散った鮮血が顔にべっとり付いている。
飛沫だけではなく、苦しみながらずれ落ちた手形のような血の跡が、頬にくっきり残っていた。
まさかと、小十郎はソファの向こうに回り込んだ。

「…っオメェら!」

いつも起きているはずの若い衆が三人。
あられもない姿で転がっている。
もう息はないだろう。
見ただけで解る程だった。
頸動脈はぱっくりと割れ、流れ出た三人分の鮮血が床を濡らしている。


「…俺様の名前は猿飛佐助。竜の御命頂きに来ましたぜ、右目の旦那。」

「まさかっ!テメェが…!」








嘘なら早く嘘と言ってくれ

















お控えなさってくださいな

ご存知ならば有り難い

伝説と呼ばれた殺し屋とは俺様のこと

虎炎会の若い衆とは仮の姿でございます

お館様を武田信玄、旦那に真田源氏郎幸村を持ちます

しかしながら主でさえも俺様の諸所は存じやしねぇ

誰も彼も主に進言できる口を持てないからさ









そいつぁ何故か
















「殺しちゃうからだよ」


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