見参!

□君の幸福。零
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 幸せの在りか

 君の幸せの













「前田せんせーどのー」

パタパタと駆け寄ってくる足音を振り返って、まつは困った表情をした。

「幸村さん、ここでは皆が前田なのですよ?私ども困りまする…」
「そうだぞ幸村。よっしょ」

小さな体を抱き上げたのは、利家だった。

「よっし。練習だ幸村!俺は誰だ?」

胡坐をかいた自分の上に幸村を乗せる。

「としーえせんせーどの!」
「よくできたな!偉い偉い!じゃあ…こっちは?」
「まつせんせーどのぉ!」
「よしよし!もう一人は…」
「けーじせんせーどのー!!」
「あっはははは!よくできましたー!」

ふわふわの髪を、利家は思い切り撫でてやった。
嬉しそうに笑った幸村は、ハッと何かを見つけ、更に瞳を丸くした。

「さすけー!」
「あら?猿飛様、どうぞお入りになってくださいませ」

庭に面したガラス戸の向こうで、手を振っているオレンジの髪があった。
まつは、小走りに駆け寄り、戸を開ける。

「すいませーん。いっつも遅くまで…」
「いいえ。遅くまで、お勤めご苦労様に御座ります。」
「さすけー!!」
「ごめんねー旦那ぁ、わ!」

駆け寄ってきた幸村が、佐助に抱きつく。
嬉しそうに頬を摺り寄せた。

「まつセンセ、明日も多分これくらいの時間なんだけど…」
「畏まりましてございます。」

にっこりと笑うまつに釣られて、佐助も笑う。
後ろからひょっこり顔を出した利家は、黄色いカバンを幸村に掛けた。
靴は知らぬ間に利家が履かせていた。
さすが保育士だと、佐助は驚いた。

「せんせーどの!さよーなら!」
「はい、さようなら」
「気をつけて帰るんだぞー」

ぴょんと飛び降りた幸村は、一直線に走り出した。

「ちょっと!じゃあセンセ失礼します!」

まつと利家は、ベランダに出て手を振り続けていた。



「幸村は偉いなぁ…父子家庭で父親が忙しいというのに、毎日毎日元気満々だ。」
「えぇ、そうで御座りますね。」

まつは部屋に戻り、後片付けをしながら呟いた。


「幸せならば、それで宜しいのですよ、きっと…」
「そうだな。まつ、某も幸せだぞ」
「まぁ、犬千代様ったら…」




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