薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□弐拾
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「……あのさ、縁君…近藤さんは大丈夫なの?
これからも……ちゃんと、また…動けるよね?」

「総司がそんな顔をしては、今度は局長が悲しまれてしまいますよ?。
……近藤さんは大丈夫ですから、俺を信じて下さい」


 本当に心の底から心配しているのだろう
心配を隠しもせず詰め寄るように問う
彼の頭を撫でながら、微笑みかけた

 そうすると、総司も笑みを返す。


「良かった…縁君、ありがとう…近藤さんを助けてくれて」

「いいえ、当然の事をしたまでですから
…局長も早く皆に会いたがってますしね」
「ふふ……そっか」


 安堵したのか、頭上を撫でていた手を握るなり
総司は唐突に俺の膝に頭を置いて横になった

 そんな総司に平助は、再び呆れてるのか少し
羨ましがっているのか…総司が寝ていた布団でゴロ寝をする。


「―――……そう言えば山南さん…羅刹隊を強化しようとか
……また人が変わったように躍起になってたな…」

「………そうですか…」


 何処か思い返すような口振り、その表情は
悔やむような様子だ…止められない自分がもどかしい

 それは俺も同じ …ふと、総司は視線を向け


「…山南さんの立場だったら、そう考えるのも無理は無いんじゃない?僕だって、身体がこんなになってなかったら、今直ぐにでも刀を取って、近藤さんの仇を討ちに行ってると思うし」

「仇を取りに行こうとしたら許しませんよ総司?
それ以前の話、今の貴方にそんなことはさせませんが…」
「縁君は優しいのか、そうじゃないのか分かんないや」


 顔を顰める総司には額を撫でて表情を和らげさせた
無理などさせられる筈がない…そんな事をしようものならば
どうされるか本人は解っているから、困り顔


「平助はどうなの」


 流れ、総司は話を平助に訪ねるよう
視線を向ければ彼も困り顔に身体を此方に向けては俯き


「オ、オレは……、そうだなあ……変若水を飲むって決めたのはオレだけど、この先どうなっちまうのか……不安が無いわけじゃないよ。……山南さんはもっともっと羅刹隊の人数を増やすべきだって言ってるけどな。そうしなきゃ、勝てないって」

「……あの人…やはり解ってないのですね
…独りではないのに……抱え込んで…苦しんで…」


 平助には似付かわしくない重く沈んだ表情に
無意識に蘇った最近の出来事、血を分けてほしいと
俺へ刃を向けた時の山南さんの顔、何処か

 悲しそうで…諦めを含めて…心の何処か
助けて欲しいとも見えた迷いの目。


―――…俺は、お節介なのか…?


「……でもさ、山南さんが何を言っても、最終的に
どうするかを決める権限は土方さんにあるからね」

「だよな。ただ……、羅刹隊はもう存在しちまってる訳だし
臭い物に蓋をし続けるには限度があるよな」

「この世に存在するモノ、永遠に影に隠すのは不可能です…
何時か彼らも表沙汰になりましょうことは必然的でしょう…」
「そんな確定的に……いや…否定はできないけどさ…」


 げんなりしたように、しかし相変わらずだなあ
と言いた気に平助が苦笑いを向けてくる
彼も解っているんだ、己の事だから…俺とて自身の経験だ…

 何時までも影は隠してくれない。


「まあ、山南さんの言う通り、羅刹隊を強力な戦力って
割り切って活用するのも間違いではないんじゃない?
……剣としては使えるからね」


 何処か吐き捨てるような総司の言葉には自嘲めいた響きが
隠されることなく、此方にも分かる位多分に含まれていた

 だから頭を撫でて手を握る


―スッ…
「……………」


 総司から返ってくる握り返しも程良く、強くて
俺はそんな総司を見て、手の届く範囲で横になってる
平助へも空いてる片手を彼の掌へ、そっと
握り締めた――同情ではない…ただ、今は二人に肌身触れたかった。


「「……………」」


 彼らの表情は苦しみ、悔やみ、そして次第に……安堵していた。


「総司、平助…今晩は二人とも此処で寝なさい
…貴方達が眠るまでこうして居ますから」

「嬉しいよ…ありがとう」

「…これじゃ縁君に心配されても仕方ねぇな…オレ達…」
「うん、ホントそうだね」

「ふ……仲が良い事だ…」


 何時しか落ち着いた気持ちで俺は数時間程彼らの傍に居続けた

 そして、握る気配が落ちた頃、教え子らに二人を
布団で寝かせるのを手伝ってもらい、その場を後にした。




「……長、」

「…どうしました?」

「――…押し付けがましいでしょうが、私は長が居れば
新選組も羅刹隊も安心して在るのだと思っております」

「!……それは、また…何故」

「…私達と同じように、彼らもまた…長が居られるから…
居場所があるのだと安堵しているのです」

「?!…俺など…」
「…解っているだろ、長?……沖田組長も藤堂組長も…
アンタのような人に救われれば…知らず
拠り所にしたくなるのさ…縁さんのような人はな」


「貴方達は買い被り過ぎだ…」




 揺らぐ新選組が、戦が終わるまでの間
戦力として羅刹隊を見て、使う―――それが正しいか、間違いか


 俺に決める資格は無い
俺自身が間違いの存在だったのだから




 でも、教え子はハッキリ言った
俺は彼らの拠り所なのだと、そんな存在で在れるのだろうか


 こんな、人ならぬ生き物が。






* * * * *


 そして、翌日

 今日も怪我が思わしくない隊士らの
定期的診察を行っていたところ、ふと気配に
違和感をも感じていたところに来客が来たと、教え子が伝えに来た。

 客はまさかの千姫と君菊さんだとか


「今回は様子が違った…羅刹隊の話が一枚噛んでそうだ…
縁さんも行った方がいい、残りの診察は尚光と弦之助に任すと俺から伝えておく」

「すみません…ありがとう」


 俺も行った方が良いだろうと推され、午前単位の診察は
丁度、今で終わったので教え子と奉行所の広間に向かった。



* * *

「――千姫、君菊さん…突然の訪問ですね?どうしました?」

「お邪魔しております…」
「縁さん、貴方も此方に来て」


 少し張り詰めた表情の千姫に、粗方の察しは付いた
…恐らく、教え子が察した通りの事か

 取り敢えず席は歳さんの近くで
千姫とは向き合う形に、ふと歳さんは表情顰め


「……意外な客もあったもんだ。本来此処は
部外者は立ち入り禁止なんだが……」

「ごめんなさい。どうしても、今日しなければならない話があったものですから」

「あの……私、お茶を淹れてきますね」
「いえ、話が終われば直ぐお暇するから、お茶は要らないわ
それより、貴女も此処に居て。……貴女にも聞いておいて欲しい話だから」
「は、はい……」


 千姫にそう言われると千鶴ちゃんは頷き
何故か部屋の隅っこに腰を下ろした…きっと
千姫の張り詰めた雰囲気に圧されたのだろう、大丈夫だと
此方に呼びたいが、きっと彼女の負担になってしまうから止めておいた。
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