薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾九
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「見た通りですが…二人揃ってまたどうしたのですか?」

「話し相手になってもらおうと思ってよ。何しろ、話しを出来る相手が居ねぇんだ」

「…相手が居ない?」
「おう」


相手が居ないとはどういう事か
今、隣には左之さんが居るのに

…と、思った…だけど
次第に疲れた表情になっていく新八を見て悟った…内容は
おそらく、そこらの誰かでは
話しにくい事か将又(はたまた)は愚痴といった所であろう


「悪ぃな。何となく察しはついてるかも知れねえが、新八の完全なる愚痴だ。だからこんな話しを聞いてもらえる相手、縁しか居ねぇだろ?」

「おや…そうでしたか」


俺に愚痴を向けるとは、まあ内に溜めては彼らの健康にも良くないだろうと思い俺は苦笑気味に笑って見せながら彼らと向かい合って話をすることにした

出始めに「――…それで…」と
問えは新八が大きく頷いて


「そもそも、近藤さんや土方さんがいけねぇんだ」

「あぁ、いきなりそこから始めちまいやがった…」


左之さんの止めなど新八が聞く筈もないのだろうと理解して
彼は他には敢えて何も言わず
取り敢えずは新八の愚痴話しとやらに耳を傾けた


「羅刹隊なんてよ……あんなもんを何時まで続けるつもりなんだ、まったくよ」
「縁も疲れてんのに、ほんと、巻き込んですまねえな」


独り言の様にも考え込む新八の隙を見て左之さんが変わりに
申し訳なさそうに、俺に
謝ってくるものだから
笑って首を振れば
笑顔の応答が返ってくる



「そりゃあ俺だって、平助に死んで欲しいわけじゃねえけどよ……でも、だからって、あんな方法で生かすなんてのは、残酷だと思わねえか?折角、縁が懸命を尽くして平助を助けてくれてたのによ!」

「……そうですね」


まるで本当の家族を思うかのようにも聞こえてくる新八の声
それは何処か感情的だけど
でも、それは平助を思っての事

聞いていて分かる…だから思わず、俺は内心で己を嘲笑ってしまった…俺がもっとちゃんと、平助は助けられるのだと皆に信じてもらうことが出来たのなら、また違ったのだろう…と


「斬った張ったをやってるんだ
相手を斬る事もありゃあ、自分が斬られちまう事だってある
そんなことは、皆承知の上で
腰に大小ぶら下げてんだよ
だからって、ここはよ……死ぬことも許されねえのかってな」

「お前の気持ちもわかるけどよ
ちょっと言い過ぎじゃねえか
羅刹になった奴も、お前と同じ様に何か言いたい事はあるだろうけどな、近藤さんや土方さんだって、まあ色々、考えてやってんじゃねえかな」

「なんだ、左之!お前も、あの腐った計画に賛成なのか!」


左之さんは至る所で局長らの
フォローや俺を気遣ってくれてるのだろうが、今までの事に
憤慨を覚え、そろそろ
新八の方は頭に血が上ってる

最早、愚痴を受けるだけでは済まされずに勝手に言い争いが
始まってしまいかねない


「んなこと言ってねえだろ。
ただ、新八よ、ちぃっと落ち着いた方がいいんじゃねえか?
人の非を鳴らしてばっかりいたって、あんまりいいことはないからよ」
「……話になんねえな!」


新八はそう言うなり、左之さんからは同意を得られないとなると火がついたような勢いで席を立ち部屋を出て行こうとした


「新八」

「!?……なんだ」


が、俺は彼を引き止めた…感情のままに怒るのは勝手だが
少し、今の新八は頂けない


「――逆に問いましょう…今の俺は、残酷で、哀れですか?」

「?!…な、何言って…」
「言い訳でも、今の新選組を守る為にお上からの命令をあの人達は苦渋の決断とした、副長達は残酷な人間なのですか?…死ねぬとも今を生きてる彼ら、羅刹隊は人、それでも哀れむのですか?」

「…………」


俺はこんな話を持ち込んできた上の連中が許せない、こんな事は許せないと分かってる

でも、同じ人間の手によって
人の道理を外れた者は…
人ではない、同じ人間には認められない…何と身勝手な生物


「…縁」

「俺は後戻り出来ない……だけど、彼らは今もこの時を頑張って生きてます…だからどうしても応えたい……この新選組の為、仲間の為とも」


新八の言う事は最も正論だけど
俺はまだしも、新選組や羅刹隊まで批判はしないで欲しい…


「………………悪い…縁………左之も…俺、少し頭冷やしてくるな…」

「はい…」
「…程々にな」


苦渋に満ちた表情だったが何とか普段通りを装って新八は部屋を出た…それでも、これでいい、今までの言葉で後に後悔しないでほしいから

閉じられた襖を暫く見据えた


彼は…大丈夫



「新八の性格にも…困ったものですね…まるで俺が悪者です」

「はははっ、悪者っつーよりは
子を宥める母親って感じだがな
――…新八の事、ありがとな」

「…言わずと知れた…ですよ
あの人…優しすぎますから」

「……そうか」


再び左之さんに向き直れば、彼は何処か安堵したかのよう
次第に何処か困ったような
戸惑うような表情を浮かべ


「…良い奴だからこそ、色々と許せない事が多いんだろうな」

「そうですね…間違ってると分かっていて、仲間が不正に手を染めているのを黙って見ているなど、新八には到底出来なかった…」

「嗚呼……。だから、良い奴にとって許せない事が多いってことは、それだけこの新選組がおかしくなってるのかもしんねえな」
「…………」

「特に、山南さんはなぁ……。俺の目から見たって、明らかにおかしくなってきてるからな」

「……山南さんは…」


心配と不安を俺に感じさせる彼
…左之さんは俺の身を心配していてくれてた…彼だって
この新選組に色々怪訝はあるだろうに、敢えて言わないのは

皆を気遣っているから


「……最近の、あの人は周りとの関わりを持たなくなっている。……だが唯一、医者としても人間としても縁だけは山南さん、頼ってると思うが…最近どうなんだ?」


仲間を大切に思うからこそ
左之さんは俺を真っ直ぐに見た

それに俺が答える権利があったのだろうか…俺は山南さんに
頼られる様な人間でもない…
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