薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾九
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「――…おい、縁?」

「?!……っ…すみません
何でも、ないです…」

「……………」
「っ……」


掴んでいた手を離そうとすれば逆に掴まれ、もう片手では俺の顎を捉えて視線を捉えた

この見定めようとする瞳が
酷く恐ろしい…
俺の内を暴くのではないかと


「……飢えを覚えたか…」
「?!?」


それに、歳さんは困った表情でありながらも言葉では優しく言うものだから俺の内が蠢き慌てて距離を取り跪いて首を絞めた


「……はぁ、我慢強いのは結構だが…テメェをテメェで駄目にしちまったら訳ねえぞ…?」

「……っ…」

「縁が動けなくなったら、一番困るのは誰だと思ってやがる」
「……歳、さ…ん…」


俺の目線に合わせるよう歳さんも膝を付くなり頭を撫でるよう添えてから、肩に抱いてくれた


「……最近、縁は汚れ仕事ばかりだ。…汚れ役、伊東暗殺、平助の事だって…本来は全て俺がやるべきだ…お前が抱えるべきことじゃなかった」

「それが…新選組の為なら…」

「…結果、お前の大切な奴らも傷つけちまったじゃねえか…」


申し訳なさと後悔を含めた苦しげな口調の歳さんを横目に
俺は身を落ち着かせる為、深く溜め息を吐いてから歳さんの手を握り締めた

あの子達を思ってくれるだけでも俺は何処か嬉しかった
それは教え子の働きが新選組と変わらず認められているから


「…確かに傷付いた……ですが歳さんがそう思って下さるだけで、あの子達には意味有るものになりますから…」

「あんな……大変な事になったってのにか…」

「教え子の命を救い、預かるのは長たる俺だけの役目です…そして、新選組の命も…」

「……ったく、適わねえな…」


何処か納得したように、それが俺だと分かっているから
これ以上は言わないでいる

だが、俺も迂闊に気を緩めてはいけない…また内が騒ぐ…
歳さんはそんな俺の様子を知ってか知らずか、唐突に腕を引くなりその胸の内にこの身を納め、落ち着かせるように背中には手が置かれる…


「……歳、さん」

「…縁、お前は抱え込まなくていいんだぞ…幹部までならまだしも"新撰組"にまで身を捧げようと考えるな」

「…………」

「…お前が思ってるよりも"新撰組"はそこまで落ちぶれちゃいねえよ…お前が躯を壊してまで、頑張る事はない…皆…心配するだろ?」

「……そうですね」


歳さんの顔を見上げた時、彼は珍しく優しく笑んでいた…
労う意味も含めて頭を撫でられ
少しばかり、ざわめいていた心が落ち着いた気がした…


「……テメェはテメェを大切にしろ、一人で苦しむな…新選組の誰でも良いから必ず頼れ…アイツらはお前を分かっている」

「?!……は、い…」


分かってくれているからこそ…
本当は、みんなとは越えてはいけない一線も有っただろう

もし俺を受け入れてしまったら
後戻り出来なくなるのは俺だ


「首の怪我の処置はちゃんとしとけよ……俺は仕事に戻る」

「……歳さん」

「なんだ…?」


部屋を出る間際、襖に手を掛けたまま振り返った歳さんに
ふっと笑みを向けた


「……ありがとうございます
ご無理はなさらずに…」

「フッ……縁もな」


俺はもう――…後戻り出来ない

…進むしかないんだ







* * * * *


***


「では、長と副長の命に従い
斎藤組長の元へ行ってきます」

「…長、組長に言伝は?」

「……そうですね、では俺は文を貴方達に託します…近くですが、二人共、道中お気を付けて下さいね」

「承知」
「お気遣い傷み入ります」




あの後、副長の命により言伝に隊士が来た…内容は、今現在
天満屋に滞在している一への
書状を届け出る事

何故、その命が救護隊に回ってきたか…それは風間が新選組を襲撃したお陰で動けない隊士が多いからだと

腕も人間も信頼出来る幹部格には任せられない仕事、かといって昨日今日に入ってきたような新参者の平隊士では信用すら出来ない

だから表は医者、裏は忍として動いている悠乍と琥朗に白羽の矢が立ったと言う事だった


新選組 救護隊の者として
そして俺の教え子達である
あの子達は誰よりも信頼できる



「もう、日が沈んだか…」


そんな事を思い返して数刻

部屋に外の明かりは消え僅かな
夜明かりの中で
新隊士名簿を記録してたが
流石に灯り無しでは筆は進まず
蝋燭に火を付けた



―カタン…

「よう、また部屋に一人で過労働か?そんなんじゃ倒れんぞ」

「ったく、左之と二人だけは飽き飽きしてたから縁が居てくれて良かったと思いてえのによ、この様は何だ?お前は二代目土方さんか」

「飽き飽きなのはこっちも一緒だぜ…てか此処まで来てまた堅っ苦しくしてんのかよ、お前は」


調剤室での別室部屋で薬の説明や患者の病状に対しての書き纏めた書類を保管する部屋に左之さんと新八がやってきた

彼らが指摘するのは俺の回りに積み上げられたら書類の束や
散乱する紙だった


「そんなにげんなりしなくても大丈夫ですよ、丁度やることは終えて灯りを点けたところでしたので」

「お、そんじゃあ俺達は良いところに来れたってとこだな!」

「縁、暇だよな?」


成り行きで自分たちの座れるスペースを確保する為に
左之さんと新八は書類を整えてから、嬉しそうに問うてきたから首は縦に振っておいた
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