薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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(顔色はマシになったな…)

(…すみません…一も暫く
動いてはいけませんよ……)
(……嗚呼…)


(……へえ…)

(歳さん…?)
(縁も案外、女らしい顔は出来たんだな?…斎藤から血を貰ってた時の表情が以外と誘ってる感じに見えたぜ?)

(なっ…)
(ひ…土方副長…)

からかわれた…
この顔は笑ってる

でも、何処か安堵が見えた


(ふっ…冗談だ)

(もっと冗談に聞こえる
冗談を言って下さいよ……)

(………)

この時、俺と一は間違い無く
顔を赤くしたことだろう

歳さんは歳さんで
安心したように
頭を撫でてくれて…

心配も掛けたのか
俺が一を喰らい、落ち着くまで静かに見守ってくれた事を思うと少し申し訳ない

歳さんからも血を貰ってまだ
間も無いと言うのに…


飽き足らず、止まらず
俺は喰らい過ぎだな…

自重出来ない…






* * *


「あら…縁君、こんな所に居ましたのね、探しましたわよ」

「伊東参謀…」


それから程なくして
俺は調剤室に籠もっていた

ふと昨日のことを思い出して羅刹に対する発作止めの薬を
開発するべきか悩んでた…そんな時に伊東参謀はやってきた


「昨日はとても酷い大怪我をなさっていたようだけれど大丈夫なの…まだ顔色が悪いわよ?」

「いえ…お気遣いなく…伊東参謀には、大変お見苦しい物をお見せしてしまい申し訳ない」

「そんな事はありませんわ、土方君と近藤さんから事情は聞きましてよ」
「…、……」

「私、縁君の事を少しでも知れたことが嬉しいの」


嗚呼、何度見ても変わらない
この人が俺を見る目は嫌だ

才知がある人なのだろうが
この人は差別視なんて簡単に
やってくれる人間だろう


「…どういう事で…?」

「私はね、新選組を離れ
新しく隊を立てるつもりなの
同士と共に此処を出て
孝明天皇の御陵衛士を拝命する所存ですわ」

「!……ですが、」
「ふふっ、ご心配なさらず
ちゃんと話し合って
出て行くつもりですから」


嗚呼、そして消えゆくのか
この人達も…時代の波に…

邪なる考えを抱いたばかりに
この新選組という巨大な結束隊の元、粛正され…


「それに…元々、尊王攘夷の志を持っておりましたけれど、彼らとはどうも水が合わなかったようですの」


早くも歳さんが言った事が現実になってしまっている

聞いている限りでは、この話の持ち掛けは俺が最初だろうか…弱ったな…


「後程、近藤さん達には話に行くつもりだけど、その前に縁君には今すぐにでもお話をしておかなければと思いました次第ですわ」

「………」

「…このような場所は貴方にとってもよくない場所、今すぐにでも私と離れた方が縁君の身の為ですわ」
「?!」


知った風な口を…と言いたいが
彼のことだから局長と副長から少なからず俺の話は引き擦り出してるか…もう頭が痛くなる


「貴方は私達の元で静かに
医の心を志せば宜しいのではなくて?そうすれば…縁君も、もう苦しい思いはしなくて良いのではないかしら…?」
「……俺は…別に」
「貴方が迷う事は重々承知
でも、御陵衛士に入ることも考えていて下さらないかしら?
縁君のことですから隊の事も心配になるでしょうし、場合によっては往診に回る為に縁君だけは新選組と御陵衛士を行きゆきをしても構わなくてよ?」


――驚いた、そこまでして
俺を引き抜く理由が更に
分からなくなった…


「俺が裏切ったり…見限ったり
…密告したりすると思わないのですか?俺の今の立場は新選組であり、会津の副藩主でもありますよ?」


派閥で分けられてはどちら派でもない俺だが長き付き合いに信頼で行けば、俺は確実に新選組の味方をすると思わないのだろうか


「正直者ですわね、私はそんなこと心配などしていませんわ?私自ら縁君をお誘いしている上、貴方は自ら事を打ち明ける……やはり縁君はとても素晴らしいわ」
「俺は…どちらの味方にも
ならないと仰れば…」

「それでも貴方が私に付いて来て下さるならば構いませんわ」


伊東参謀は俺の手を両の手で
包むよう取り、何だか彼の中で
簡潔に納得されてしまった

どうしよう…話を流されて行ってるかも知れない、何か『善は急げよ』とか言われて広間へと急かされ有無聞かずして進められてしまった


いや…だが、新選組を考えるならば俺も俺で新選組の為に
何かを成す事は出来ようか。





* * *


「……理屈はいい。伊東さん、あんた、ようするに隊を割ろうっていうんだろう?…しかも別働隊まで引き連れようとはな」

「隊を割るもなにも、貴方達のような獣の集団と一緒に居られませんわ。それに比べ別働隊は縁君が率いる隊、時として人を助ける救護隊は私達、御陵衛士の元で生かされますわ、ねえ縁君?」
「はい…」

「まあ、伊東さんがそこまで言うならしょうがない。だが説明したように、今回の事件の大元は幕府の依頼なのだ、今回の事を外に漏らされては我々も黙っている訳にはいかない」

「……そこは、取り引きというものですわ。貴方達は黙っていて欲しいし私達は出て行きたい、だから出るにあたって隊士を分けて欲しいと言っているのよ」

「……分かった。だが、連れて行くからには本人の承諾をお願いしますよ」

「それはもう、もちろんですわ
表向きは協力関係にある…と言う形を取らせて戴きますし
救護隊の事を考えてあげれば
その方が、お互いにとっても都合が宜しいじゃないかしら……ふふっ」

「協力体制なぁ……と言うことだそうだ。トシ、これでいいかい?」

「……決めたのか、縁」
「ええ…決めました」

「ちっ、近藤さんや縁がそう決めたなら、俺はもう何も言わねえよ」

「副長……」

「…………」




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