薄桜鬼〜孤独な彼岸花〜

□拾六
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「お気持ちはよくわかりますが……。実際にはそう簡単でない事はわかっているのでしょう?
ですから、私達に任せて下さい
私達なら彼女も縁さんも守れる可能性が高まります」

「おいおい、決めつけんなよ。俺達が守れないって言うのか?縁は守られるだけじゃねえ、俺達と頑張って守ろうとしてきたんだぜ?」

「あんたらの守れる可能性ってなんだ?今の可能性は縁が千鶴ちゃんの側に居て、俺達が傍らに在る事だ。確実に守れるって保障が無いなら渡す必要も無いだろう」

「それよりも……部外者の貴方が僕達新選組の内情に、口を出さないでくれるかな?」


千姫の申し出を、皆が口々に拒んだ。その言葉には彼女から守れないという言葉のものに対してか一様に怒気がはらんでいた


「土方さんは、どうお考えです?」


唐突に千姫の隣で控えていた
君菊さんが口を開いた


「風間達の力を承知している土方さんなら、姫のお話、お分かり頂けるんじゃありません?千鶴と縁さんをこちらに渡して下さいな」

「それとこれとは話が別だ
相手がどんだけ強いかどうか知らねえが俺達が新選組の名にかけて守るって事とは、関係ねえ
それに、お前達が鬼だと言うのは認めるが、別に信用した訳じゃない。信用する義理もない」
「無礼な物言いですね。千姫様は、鈴鹿御前様の血を引く――」

「君菊、おやめなさい。
今はそのようなことを言っているときではありません」


千姫があくまでも
穏やかに、だが反論を許さない態度で制止した


「私も土方君に同意します。
縁君は新選組の隊士を預かる医師、そして彼女には、まだ此処に居てもらわないと困りますしね」


山南さんの言葉を聞いて
君菊さんはきっと睨みつけたが他に何も言わなかったのは
千姫の手前故か…


「そうですか……困りましたね
どうしても、承知しては頂けませんか?」


困り果てた千姫の言葉に腕組みをして考えていた
近藤さんが口を開き


「縁君、君はどうしたい?今や君は…」

「この様な場合、行けと言われても行きたくないですね…今の掛け持ちは疲れますし」


御陵衛士を含めての本心
俺が皆に向かってそう言うと近藤さん達は柔らかく笑んで
安堵していてくれた…

――…胸が苦しくなる…
…ありがとう…。


「……雪村君、君自身はどう思うんだ?」
「ぁ…わ、私は……まだなんとも……」

「ふむ…そうか。我々の前では
何かと話しにくいかもしれないな。千姫さんと二人で話してくるといい」
「近藤さんっ、そいつは……!?」


近藤さんや俺以外反対したのは
歳さんだけじゃなかった
全員が口々に異論を唱える


「せめて誰か一人、立ち合うべきでしょう。あちらも君菊さんに来てもらえばいい」
「まあ、いいじゃないか」


近藤さんは一度
幹部達の顔を見回した


「この子は、無茶なことはしないよ。ちゃんと道理をわきまえた子だ、なあ、雪村君」

「はい、皆さんを裏切るような真似はしません」

「仕方ないなあ、近藤さんが言うんじゃ」


総司の言葉が、皆の気持ちを
代弁していた、局長が決めた決定の重さか…はたまたはそれ以上に、近藤さんという人柄か


「二人きりになった途端
そのまま彼女を連れ去る……
なんて事はないでしょうね?」

「心配は無用です。私は風間達とは違います……それは、偽りを嫌う浪神鬼に…縁さんに誓って…」


そう言って再度合う
千姫の真っ直ぐな瞳が
俺の眼を見据える。

……嗚呼、大丈夫だな…
俺は偽りが嫌いだよ
自分を偽るのは慣れていても。
千鶴ちゃんとも目を合わせ
大丈夫だと頷いた


「…………」

「うん……大丈夫です。
お千ちゃんは悪い人じゃありませんから」

「ありがとう、千鶴ちゃん、縁さん」


優しく笑みを俺と千鶴ちゃんを
送ったのを合図に彼女たちは
広間を出て部屋に向かった


―――…そして、この部屋から
強い鬼の気配が出て行った事を
感じ取れると息詰まった空気に
我慢の糸は緩む…


「……っ」
―バタッ…
「縁?!」

「縁君!?」


空っぽになったかのように
力が抜けた……

まず、側に居た総司が駆け寄り俺を支え、歳さんらも側に来てくれたが彼らの顔を見る事が出来ず、躯を丸くして総司の腹元に埋まるばかり


「おい、縁!いきなりどうしたってんだよ?!」

「具合が悪いのか……?」

「…縁君…………」


駄目だ、感情が歪む…
女鬼の純血が…

…惜しかった…欲しかった
躊躇った、喰らいたかった…
この歯を…牙として喰い荒らし

満たしたかった…

――……こんな歪んだ感情が…俺で在りたいからだなんて……


「…っ"……ぐ…ぅゥ"ッ…」
「己の気力のみで身を抑えるなど無茶をしているのですね…」

「………ゥ"ッ!…ぁ……はっ………あま…り、今の…俺に……っ……近寄らない方が…いい…
鼻が、効き過ぎて…どうにか…なってしまいそう…なんだ…」


心配そうに離れて控えていた
君菊さんが伺うが…多分、今の俺はとても歪んだ顔をしていることだろう…自分自身の生き殺しなんて、なんと馬鹿なことか

目の先に、まだ味知らぬ濃血を持つ者が居る…獲物が……だけど駄目だ…今は駄目なんだ

今喰らい付けば離れられない


「仕方無いなあ…じゃ、今回は僕が縁君の面倒を見て上げるよ…こんなに縋られちゃあ…ね」
「!?……総、司…っ」

「総司…テメェ体調を…」
「嫌だなぁ、土方さん
今は縁君が優先ですよ」


心配と異見の端間な歳さんの言葉を流しながら、そう言って総司は軽々と俺を抱き上げた

…刻々と病に蝕まれつつある
身体なのに…そんな弱った身体で飢えた俺を……――
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